浮遊限界撹拌速度とは

CAE用語
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浮遊限界撹拌速度

一言で表すと、、

浮遊限界撹拌速度とは、固体粒子が液体内で沈まずに、均一に浮遊し続けるために必要な最小の撹拌速度のことを指します。

この速度を超えることで、固体が液体中に均等に分散されます。

概要

撹拌プロセスにおいて、液体内に固体粒子を均一に分散させることは重要な課題です。

固体粒子が沈殿することなく液体中に浮遊し続けるためには、撹拌装置が適切な速度で回転する必要があります。
この適切な回転速度を浮遊限界撹拌速度( \( N_{js} \) )と呼びます。

\( N_{js} \) を正確に把握することは、撹拌プロセスにおける効率的な混合や反応速度の向上に直結します。

\( N_{js} \) が適切でない場合、固体粒子が底に沈殿し、十分な混合が行われないため、プロセス全体の効率が低下する可能性があります。

イメージ

浮遊限界撹拌速度は、液体の中に砂や粉末などの固体粒子を混ぜる場合を想像すると理解しやすいです。

例えば、砂糖を水に溶かすとき、スプーンでゆっくり混ぜても全ての粒子が底に沈んでしまうかもしれませんが、スプーンの回転速度を上げると砂糖が水中に均一に溶けて分散します。

これが浮遊限界撹拌速度のイメージです。

実際の工業プロセスでは、撹拌槽内で固体粒子が底に沈殿せず、液体全体に分散された状態を維持するために、撹拌装置の速度を \( N_{js} \) 以上に設定する必要があります。

定義

浮遊限界撹拌速度( \( N_{js} \) )は、一般にZwieteringの相関式として次のように定義されます。

$$
N_{js} = \frac{S \nu^{0.1} {d_p}^{0.2} \left( g \Delta \rho / \rho_L \right)^{0.45} X^{0.13}}{d^{0.85}}
$$

$$
\Delta \rho = \rho_S – \rho_L
$$

  • \( N_{js} \) : 浮遊限界撹拌速度(s⁻¹)
  • \( S \) : 装置形状因子(撹拌翼や槽の形状に依存した定数)
  • \( d_p \) : 固体粒子の直径(m)
  • \( \Delta \rho \) :固体粒子と液体の密度差(kg/m³)
  • \( \rho_S \) : 固体粒子の密度(kg/m³)
  • \( \rho_L \) : 液体の密度(kg/m³)
  • \( g \) : 重力加速度(9.81 m/s²)
  • \( d \) : 撹拌翼の直径(m)
  • \( X \) : 固体粒子濃度(wtfrac)

\( N_{js} \) は固体粒子の直径や密度差、撹拌翼のサイズなどの要因に依存して決定されます。
また、撹拌槽内の流体特性(粘度や密度)も重要な影響を与えます。

装置形状因子

装置形状因子 \( S \) は装置形状によって変化する因子で、槽の大きさ、撹拌翼の種類、バッフルの有無等の影響をこのパラメータのみで表しています。

下表に代表的な値を示します。

種類\( S \) \( N_p \)\( d/D \)\( C/D \)
プロペラ6.60.51/31/4
ディスクタービン3.95.01/21/6
パドル(2枚翼)2.35.92/31/7

ここで、

  • \( N_p \) :動力数(無次元)
  • \( D \) :槽径(m)
  • \( C \) :翼の槽底からの距離(m)

CAEにおける重要性

CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)は、浮遊限界撹拌速度の解析において非常に重要です。
特に、CFD(数値流体力学)解析を使用して、撹拌槽内での流体や固体の動きをシミュレーションすることで、\( N_{js} \) を正確に計算できます。

CAE解析では、撹拌翼の形状や回転速度、固体粒子の特性など複数の要因をリアルタイムで検証できます。
これにより、適切な撹拌速度を見積もり、固体粒子が均一に浮遊する状態を維持できる最適な条件を導き出せ、エネルギー効率の向上やコスト削減が実現します。

また、CAE解析により、製造現場での試行錯誤を減らし、撹拌プロセスの設計段階で効率を最大限に引き出すことができます。

物理的意味合い

浮遊限界撹拌速度には、いくつかの物理的な意味合いがあります。

  • 固体の分散状態の維持:
    \( N_{js} \) は、固体が液体中に均一に分散されるために必要な最低限の撹拌速度を示します。
    この速度が不足している場合、固体は沈殿してしまいますが、\( N_{js} \) を超えることで沈殿が防止されます。
  • エネルギー効率の向上:
    \( N_{js} \) は、効率的な撹拌の目安を提供します。
    過剰な撹拌速度は不要なエネルギー消費を招きますが、\( N_{js} \) を正確に把握することで、最小限のエネルギーで最大限の撹拌効果を得られます。
  • 撹拌槽の設計指針:
    \( N_{js} \) は、撹拌装置や撹拌翼の設計にも影響します。撹拌翼の形状やサイズは、
    浮遊限界速度に大きく関わり、設計段階でこの速度を基準に考慮することが、撹拌プロセスの最適化につながります。

まとめ

浮遊限界撹拌速度( \( N_{js} \) )は、固体粒子が液体内で浮遊し続けるために必要な最小限の撹拌速度を指し、効率的な撹拌プロセスを実現するために不可欠な要素です。
この速度を超えることで、固体粒子が均等に分散され、混合が最適化されます。

また、CAEやCFD解析を用いることで、撹拌速度や装置の設計を正確にシミュレーションし、エネルギー消費を抑えつつ、最適な混合状態を実現することが可能です。
撹拌プロセスにおける浮遊限界撹拌速度の理解と正しい適用は、工業生産の効率化やコスト削減に大きく寄与します。

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