現実世界で扱われる流体は、すべて粘性を持っています。流体が動くと、その動きを妨げる方向に力が働きます。
この力は、流体の速度分布に比例しており、この現象を説明する法則が「ニュートンの粘性法則」です。
ニュートンの粘性法則とは
ニュートンの粘性法則は、せん断応力(流体内部での摩擦力)と速度勾配(流体がどれくらい速く流れているかの変化)の間に比例関係が成り立つことを示しています。
例えば、上の平板が速度vで動き、下の平板が静止している状態を考えたとき、平板の間にある流体は引きずられ、速度vに応じた速度分布を持つようになります。
このときの流体に働くせん断応力( \( \tau \) )は、次のように表されます。
せん断応力の式
$$
\tau_{yx} = – \mu \frac{dv_x}{dy}
$$
または
$$
\tau = \mu \dot{\gamma}
$$
ここで、
- \( \tau_{yx} \) : せん断応力 [Pa]
- \( \mu \) : 流体の粘度 [Pa・s]
- \( v_x \) : x方向の流体の流速 [m/s]
- \( y \) : y方向の位置 [m]
- \( \dot{\gamma} \) : せん断速度の時間微分 [1/s]
この法則は、流体の流速やせん断応力を計算する際の基本的な式で、ハーゲン・ポアズイユの式やナビエ・ストークス式の導出などにも使われます。
ニュートン流体とは
「ニュートン流体」とは、上記のように、せん断応力と速度勾配の間に比例関係が成立する流体を指します。
ニュートン流体では、流速にかかわらず粘度が一定であり、温度が変わらない限り、その値は変わりません。
ニュートン流体の例
- 水
- 空気
- グリセリン
これらの流体は、分子構造が比較的単純で、温度が一定であればその粘度は一定です。
非ニュートン流体とは
一方、非ニュートン流体は、せん断応力と速度勾配の間に比例関係が成立しません。
流速に応じて粘度が変化するため、ニュートンの粘性法則をそのまま適用することはできません。
非ニュートン流体のモデル
非ニュートン流体を扱う場合、せん断応力と流速の関係を表す修正式が必要です。
最も一般的なモデルが、Herschel-Bulkleyモデルです。
$$
τ = τy + Kγ˙^n
$$
ここで、
- τy: 降伏応力 [Pa]
- K: 係数
- n: 指数
この式のパラメータ(τy, K, n)は、実際の粘度測定により決定されます。
非ニュートン流体の種類
1. 塑性流体
塑性流体は、ある降伏応力(τy)を超えないと流れ出さない流体です。
固体に近い性質を持つため、せん断応力が一定の値を超えるまで変形しません。
例えば、血液や歯磨き粉などが塑性流体に該当します。
2. ビンガム流体
塑性流体の中でも、理想的な振る舞いをするものをビンガム流体と呼びます。
ビンガム流体は、一度流れ出すと、その粘度が一定になります。
ビンガム流体の式は次のように簡略化できます。
$$
τ = τy + ηγ˙
$$
3. 擬塑性流体
擬塑性流体は、せん断速度が高くなるにつれて粘度が低下する性質を持ちます。
例えば、高分子溶液は擬塑性流体として振る舞うことが多いです。
この場合、せん断速度が上がると、流体がより滑らかに動き始めます。
4. ダイラタント流体
ダイラタント流体は、せん断速度が高くなると粘度が増加する性質を持ちます。
身近な例では、水溶き片栗粉がこれに当たります。
静置している状態では柔らかいですが、力を加えると急激に固くなるのが特徴です。
まとめ
流体の種類を正しく理解することは、工学や物理学における流体解析において非常に重要です。
ニュートン流体は粘度が一定であるのに対し、非ニュートン流体は流速やせん断応力に応じて粘度が変化するため、適切なモデルを用いて解析を行う必要があります。
特に、非ニュートン流体の扱いは、実際の測定が必要であり、注意が必要です。
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