平板ジャケットとは:その構造と伝熱性能を徹底解説

化学工学

撹拌槽における温度管理の手法として、ジャケット伝熱は広く用いられています。

その中でも平板ジャケットは、最も一般的でシンプルな構造を持つジャケットです。

本記事では、平板ジャケットの特徴や伝熱理論について詳しく解説します。

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平板ジャケットの概要

平板ジャケットは、撹拌槽の外壁に設置された仕切りのないジャケットです。

主に低圧スチームを使用した加熱用途に使用されることが多く、そのシンプルな構造からコストが低く、設計も容易です。

特徴

  • 内部に仕切りがないシンプルな構造
    平板ジャケットの最大の特徴は、ジャケット内部に仕切りがなく、媒体(熱媒や冷却水)が自由に流れることです。
    このため、設計や製造が比較的容易で、広く使用されています。
  • 低圧スチームでの加熱に適している
    平板ジャケットは特に低圧スチームを用いた加熱用途でよく使われます。
    スチームの凝縮により効率よく熱を伝達し、槽内の温度を安定的に制御します。
  • 液体流動には不向き
    平板ジャケットは液体を流すことも可能ですが、液体流動を主用途とする場合には最適な設計とは言えません。
    液体媒体を使用する場合は、スパイラルジャケットなどのより効率的な設計が推奨されます。

伝熱理論と境膜伝熱係数の計算

伝熱の効率を左右する要素の一つに境膜伝熱係数があります。平板ジャケットを使用する場合、相変化がある場合とない場合で、境膜伝熱係数の算出方法が異なります。

相変化がない場合の伝熱計算

相変化がない場合(液体の加熱や冷却など)における平板ジャケットの境膜伝熱係数は、以下の式で計算されます。

$$
\frac{h_0 \cdot D_e}{k} = \frac{0.03 Re^{0.75} Pr}{1 + 1.74 Re^{-1/8}(Pr – 1)}
$$

ここで使われる各項は以下の通りです。

  • \( h_0 \) :ジャケット側境膜伝熱係数 [W/(m²・h)]
  • \( D_e \) :相当直径 [m]
  • \( k \) :熱伝導度 [W/(m・h・K)]
  • \( Re \) :レイノルズ数 [-]
  • \( Pr \):プラントル数 [-]

この式は、流体が液体の場合における流動状態や物性値を考慮して境膜伝熱係数を算出するために使用されます。

相変化がある場合の伝熱計算

スチームなどの相変化を伴う加熱(蒸気が凝縮して熱を放出する場合)では、別の計算式が用いられます。

相変化がある場合の境膜伝熱係数は次の式で計算されます。

$$
h_0 = 1.47 \left( \frac{{k_f}^3 {\rho_f}^2 g}{{\mu_f}^2} \right)^{1/3} \left( \frac{4 \Gamma}{\mu_f} \right)^{-1/3}
$$

$$
\Gamma = \frac{W}{\pi D_1}
$$

各項の意味は以下の通りです。

  • \( h_0 \) :ジャケット側境膜伝熱係数 [W/(m²・K)]
  • \( k_f \) :凝縮液の熱伝導度 [W/(m・K)]
  • \( \rho_f \) :凝縮液の密度 [kg/m³]
  • \( g \) :重力加速度 [m/s²]
  • \( \mu_f \) :凝縮液の粘度 [Pa・s]
  • \( \Gamma \) :質量流量/π×ジャケット内径 [kg/(m²・s)]
  • \( W \) :凝縮量 [kg/h]
  • \( D_1 \) :ジャケット内径 [m]

この式は、スチームが撹拌槽のジャケット内で凝縮する際に発生する熱伝達を計算するためのものです。

スチームの凝縮による高い熱伝達が得られるため、スチームを用いた加熱には非常に有効です。

平板ジャケットの利点と欠点

利点

  • 設計がシンプルでコストが低い
    仕切りのない構造であるため、設計・製造が容易です。
    また、余分な部材が不要なためコストも抑えられます。
  • スチーム加熱に最適
    スチームを使用する加熱プロセスでは、平板ジャケットが非常に効率的です。
    スチームの凝縮によって大量の熱が伝わり、効率よく槽内温度を制御します。

欠点

  • 伝熱面積が限定的
    撹拌槽の壁面積だけを使った伝熱のため、伝熱面積が限られるのが最大のデメリットです。
    大規模な撹拌槽では、この面積だけでは十分な伝熱が得られないことがあります。
  • 液体流動には非効率
    平板ジャケットはスチーム加熱には適していますが、液体を流す場合には効率が悪く、場合によっては冷却効果が不十分になります。
    そのため、液体冷却が必要な場合は、スパイラルジャケットなどの代替手段が推奨されます。

平板ジャケットの適用シーン

平板ジャケットは、特に低圧スチームを使った加熱に非常に適しています。

また、ジャケットに用いる媒体の流動をあまり必要としない場合、設計・運用コストの面でも優れた選択肢となります。
主に化学工業や製薬業界などで使用され、中小規模の撹拌槽に多く適用されます。

ただし、大型の撹拌槽や液体冷却が必要なプロセスには不向きなため、用途やプロセスに応じた設計が求められます。

まとめ

平板ジャケットは、そのシンプルな構造と低コストでの設置が可能なことから、広く利用されています。

特に、スチーム加熱のプロセスにおいては非常に効率的な温度制御を提供しますが、伝熱面積が限られる点や液体冷却には不向きな点には注意が必要です。

撹拌槽の設計段階で、ジャケットの形状や用途に応じた選択を行うことが、効率的なプロセス運用を実現するための重要なステップとなります。
プロセスの要件を理解し、適切な伝熱方法を選定しましょう。

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