CAE活用と定着の成功ポイント

CAE

製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、CAE(Computer-Aided Engineering)の活用は、設計・開発プロセスの効率化や競争力向上に不可欠な要素となっています。

しかし、CAEを導入したとしても、それを本当の意味で定着させ、最大限に活用することは容易ではありません。

本記事では、CAE活用・定着のための重要なポイントについて解説します。

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CAEは目的ではなく「手段」である

CAE(Computer-Aided Engineering)は、製造業の設計・開発において不可欠なツールですが、その導入や活用を目指す際に重要なのは、CAE自体が目的ではないという視点です。

CAEはあくまで、製品の品質向上や開発プロセスの効率化を実現するための「手段」として活用されるべきです。

CAE導入の背景

多くの企業では、CAEを活用して製品開発を効率化し、試作回数やテストコストの削減を目指しています。

しかし、CAEが適用されるタイミングが遅れがちであり、設計の後工程で問題を解決するために使用されることが多いのが現状です。

実際に、多くのケースでは、実機試作やテスト段階において不具合が発見され、その際にCAEを使って原因を特定し、改良を行います。これでは、CAEの本来の価値を十分に引き出すことはできません。

CAEの目的を明確にする

CAEを活用する目的は、製品の品質や開発効率を向上させることです。

製品設計の初期段階からCAEを取り入れることで、試作レスリードタイムの短縮を実現し、コストを削減することが可能です。

しかし、そのためにはまず「設計で何を目指すのか」を明確にし、CAEをその目標達成のためのツールとして位置づける必要があります。

つまり、CAE自体を目的とせず、あくまでそれを使って何を成し遂げるのかが大切です。

上流工程でのCAE活用が成功の鍵

CAEを本格的に活用し、開発プロセス全体の効率化を図るためには、従来の後工程だけでなく、上流工程からのCAE活用が不可欠です。

従来の開発手法では、設計がある程度進んだ後に、試作段階や問題発生時の検証手段としてCAEを用いることが多く見られました。

しかし、これではCAEのポテンシャルを最大限に引き出すことはできません。

上流工程でのCAE活用のメリット

CAEを設計の初期段階から導入することで、以下のようなメリットが得られます。

  1. リードタイムの短縮
    製品開発の早い段階で、デジタルシミュレーションを活用することで、不具合や設計の問題を早期に発見し、解決できます。これにより、実機試作に費やす時間やコストを削減し、全体の開発期間を短縮することが可能です。
  2. 試作レスの実現
    実機を使った試作・検証プロセスはコストがかかり、開発期間の大幅な増加を引き起こします。しかし、CAEを使えば、試作前に製品の性能や信頼性をシミュレーションで検証できるため、試作の回数を大幅に減らすことができます。
  3. 全体最適の設計が可能
    CAEを早期に活用することで、製品全体の性能を総合的に俯瞰し、設計全体の最適化が図れます。これは、後工程での問題発見に依存せず、初期段階から品質の高い製品を設計するための重要なポイントです。

上流でのCAE導入が難しい理由

一方で、CAEを上流工程に導入することは簡単ではありません。

特に、設計段階で曖昧な情報や不確定な要素が多いため、シミュレーションを行うためのデータが揃わないことがよくあります。

また、従来の開発プロセスに慣れた技術者にとって、上流からCAEを活用するという発想自体が馴染みづらいこともあります。

あるクライアントでは、長年にわたる実機試作とテストに依存した開発スタイルが根付いており、CAEの導入が進まなかった背景があります。

試作を繰り返しながら徐々に製品を完成させる従来の手法に対する安心感や慣習が、変革を阻む要因となっていたのです。

しかし、少子高齢化による人手不足や市場競争の激化に対応するためには、CAEを初期から使い、効率的な開発プロセスを構築することが急務となりました。

成功事例:CAEを上流から活用したプロジェクト

CAEの上流からの活用に成功したクライアントでは、企画や構想段階から製品全体を俯瞰し、シミュレーションを用いて設計の可能性やリスクを検証する体制を整えました。

これにより、試作を最小限に抑え、開発期間の短縮とコスト削減を実現しています。

具体的には、製品の構造や機能がまだ「形になっていない」段階からCAEを用いて仮想的な試作・検証を行い、設計の方向性を大まかに決定するという方法が取られました。

これにより、設計段階での手戻りを最小限に抑え、スムーズに開発を進めることが可能となりました。

「機能設計」活用で全体像を把握

CAEの効果的な活用には、製品の全体像を俯瞰し、各機能や構成要素の関係性を明確にすることが重要です。

そのために有効な考え方が、「機能設計」です。

これにより、製品設計の初期段階から機能の整理が進み、CAEの活用をスムーズに進める基盤が整います。

「機能設計」とは

機能設計は、製品の機能と構造を整理し、可視化するための一連の手法・考え方です。

この考え方を導入することで、エンジニアが製品の全体像を把握し、各機能がどのように繋がっているのかを明確に理解することができます。
これにより、CAEの初期からの活用を支援し、設計の質を向上させます。

以下が具体的なフレームワークです。

  1. 技術ばらし
    製品の要求や機能、論理構造、物理的な構成を整理し、それぞれがどのように結びついているかを可視化します。これにより、設計の全体像を俯瞰し、どの機能がどの部分に影響を与えるかを理解することができます。
  2. 品質機能展開(QFD)
    製品の機能や特性が、実際の物理的な設計にどの程度影響を与えるかを数値化します。これにより、製品の機能と物理的な要素の関連性を強弱に応じて明確にし、優先すべき機能を整理することができます。
  3. 機能ブロック図
    製品全体のエネルギーや情報の流れを図で表し、各機能の入出力関係を視覚化します。これにより、製品の機能間の繋がりや影響を明確にし、全体最適の設計を進める上での指針となります。
  4. 要素ブロック図
    製品の物理的構成要素をブロック化し、それらがどのように連携して製品全体を成り立たせているかを整理します。これにより、各構成要素の役割や相互作用が理解しやすくなり、CAEのシミュレーション結果が製品全体にどのように影響するかを予測しやすくなります。
  5. P-diagram
    システム全体の制御因子、誤差因子、入力と出力を整理し、どのようにこれらが影響を与えるかを可視化します。これにより、リスク要因や予測しにくい誤差の発生箇所を事前に把握し、対策を講じることができます。

機能設計の導入効果

「機能設計」を活用することで、エンジニアは自分の担当する範囲だけでなく、製品全体の機能や構造に対する理解を深めることができます。

これにより、各チームが製品全体の視点を持ちながら連携しやすくなり、設計の一貫性が保たれます。

特に、複数の部門や担当者が関わる大規模な製品開発では、部門間のコミュニケーションが円滑化し、設計のズレや手戻りが減少します。

成功事例

実際に、機能設計を導入したクライアントでは、エンジニアが製品全体の解像度を飛躍的に高め、製品開発の効率が大幅に向上しました。

各機能の関係性が視覚的に把握できるため、自分の担当する領域だけでなく、他の機能がどのように設計に影響を与えるかを理解しやすくなり、部門間のコミュニケーションも活発化しました。

また、この手法を導入することで、リスク管理や改善のためのフィードバックが明確化し、次の開発プロセスにも貴重な教訓として活用されました。

特に、製品の機能や構造の把握が難しい初期段階から全体像を俯瞰できるようになり、開発の効率化と品質向上に大きく寄与した事例があります。

各エンジニアが、自分の担当部分が製品全体にどのような影響を及ぼすかをリアルタイムで把握できるようになり、全体の最適化が進んだことが、プロジェクトの成功に繋がった要因の一つです。

ワンチーム体制による組織的なCAE活用の推進

CAEを企業全体に定着させるためには、技術的な手法の確立だけでなく、組織全体がワンチーム体制で取り組むことが重要です。

CAEは、一部の専門チームやエンジニアだけでなく、組織全体が同じ方向に向かって活用していく必要があります。

そのためには、部門間の壁を取り払い、共通のゴールに向かって進む体制が不可欠です。

部門横断的な取り組みの重要性

企業の多くでは、製品開発において各部門がそれぞれ異なる役割を担っています。

しかし、CAEを効果的に活用し、全体最適な設計を実現するためには、部門ごとの個別最適ではなく、全体最適を目指すための体制が必要です。

これは、製品設計や開発に携わる各部門が、同じ目標に向かって協力し合い、共通のゴールを設定することによって実現されます。

ワンチーム体制でのメリット

ワンチーム体制を導入することで、以下のようなメリットが生まれます。

  1. コミュニケーションの円滑化
    部門横断的な体制が構築されることで、各部門間のコミュニケーションがスムーズになります。例えば、設計部門がCAE解析結果をもとに提案する改善点に対し、製造部門や品質管理部門が迅速にフィードバックを行い、問題解決に向けて一体となって取り組むことができるようになります。
  2. 全体像の共有
    ワンチーム体制では、製品開発に関わるすべてのメンバーが同じ情報を共有し、全体の設計目標やプロジェクトの進捗状況を把握できるようになります。これにより、各担当者が自分の業務がどのように製品全体に影響を与えるかを理解し、より良い判断を下すことができるようになります。
  3. 意思決定の迅速化
    ワンチーム体制のもう一つの利点は、意思決定の迅速化です。部門間の情報共有が円滑になることで、問題発生時にも速やかに対応し、設計の変更や調整を効率的に行うことができます。これにより、開発プロセス全体がスムーズに進行し、CAEの導入効果が最大限に発揮されます。

マインドチェンジによる定着化

CAEの活用を組織全体に定着させるためには、技術的な支援だけでなく、マインドチェンジも不可欠です。

従来の「実機でのテストが信頼できる」という考え方から、「CAEを使ったデジタルシミュレーションの方が効率的である」という意識へと変革する必要があります。

このマインドチェンジが成功すれば、現場のエンジニアたちは自発的にCAEを活用し、開発プロセス全体がより効率的に進むようになります。

まとめ:CAE活用を定着に導くために

CAEを本格的に活用し、企業全体に定着させるためには、技術的なツールの導入だけでなく、組織全体の体制整備とマインドチェンジが欠かせません。

上流工程からのCAE活用、ワンチーム体制の構築、そして機能設計の導入といった具体的なアプローチを組み合わせることで、CAEの効果を最大限に引き出すことができます。

特に、CAEは単なるシミュレーションツールではなく、製品開発全体を効率化し、競争力を向上させるための「手段」であることを常に意識することが重要です。

そして、組織全体が一体となってCAEを活用する体制を整え、エンジニアたちの意識改革を促進することで、CAEは企業の成長を支える強力な武器となるでしょう。

CAEを有効に活用し、その価値を最大限に引き出すためには、設計のゴールを明確にし、プロジェクトの各段階で適切なツールを活用しながら、継続的な改善を図ることが必要です。

CAEの定着は一朝一夕で達成できるものではありませんが、組織全体の意識を変え、段階的に取り組むことで、その成果は確実に現れてきます。

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