線形代数の基礎:行列の計算方法と連立方程式の解法を徹底解説

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線形代数とは

線形代数とは、ベクトルや行列を使って数値の関係を表現・操作する数学の一分野です。

特に、変数が線形(つまり、1次の)関係にある場合に有効で、連立方程式を解いたり、空間の変換を扱ったりするために使われます。

線形代数は、数理的な基盤を提供するだけでなく、様々な分野で応用されています。

線形代数の重要性

線形代数は、数学の基礎的な学問領域であると同時に、現代の科学技術やデータ処理の根幹を支える重要な技術です。

例えば、次のような分野で応用されています。

  • コンピュータサイエンス: 機械学習やデータ分析において、データの行列処理や次元削減の手法(例えば、主成分分析)で利用されます。
  • 物理学: 力の作用や変換、回転運動など、物理的な現象を行列で表すことが多いです。
  • 経済学: 多くの経済モデルや経済指標が、行列を用いて定式化されています。
  • グラフィック処理: 3Dモデルの回転やスケーリングなど、画像処理のアルゴリズムも線形代数を基盤にしています。

線形代数は「ベクトル」と「行列」という2つの主要な概念を理解することが重要です。

次章では、特に「行列」について詳しく見ていきます。

行列とは

行列とは、数値や数式を格子状に並べたもので、数値を整理したり、数学的な操作を行うために使われます。

行列は、多くの分野で使われる強力なツールで、複雑なデータの操作や計算を簡潔に表現する手段として利用されています。

行列の定義と基礎概念

行列は、縦(行)と横(列)の配置によって定義される長方形の数値や要素の集まりです。

次のように表記されます:

$$
A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} \end{pmatrix}
$$​​​

上記の例は、3行3列の行列です。

この場合、行列 \( A \) は \( 3 \times 3 \) の行列と呼ばれます。

ここで、行列の要素 \( a_{ij} \)​ は、行 \( i \) と列 \( j \) にある値を示します。

行列の表記と構造

行列は、次元によって特徴付けられます。

行列のサイズは「行の数 × 列の数」で表され、例えば \( 3 \times 2 \) の行列であれば、3行2列を持つことを意味します。

行列は、次のような構造を持つことがあります。

  • 縦ベクトル: 1列のみの行列(例えば \( 3 \times 1 \) )は、縦に並んだベクトルとして扱われます。
  • 横ベクトル: 1行のみの行列(例えば \( 1 \times 3 \) )は、横に並んだベクトルとして扱われます。

行列とベクトルの違い

行列は複数の要素を持つ構造体ですが、ベクトルは行列の一種と考えることもできます。

ベクトルは、行列の中でも「1行」または「1列」の要素しか持たないものです。

つまり、1次元の行列がベクトルということになります。

  • 行ベクトル: 1行で要素が並んでいるベクトル \( (1 \times n) \)
  • 列ベクトル: 1列で要素が並んでいるベクトル \( (n \times 1) \)

このように、行列とベクトルの関係性を理解することで、後述する演算がスムーズに進むようになります。

行列の四則演算

行列の四則演算は、加法・減法・掛け算・割り算に相当する操作を行列に適用することを指します。

ただし、行列の場合は通常の数値の四則演算とは異なり、独自のルールがあります。

ここでは、行列とスカラーの演算、行列同士の四則演算、そして特殊な行列について解説します。

行列とスカラー

スカラーとは、1つの数値を指し、行列に対しては各要素に同じスカラーを掛ける、または足すなどの演算を行います。

スカラー倍

行列 \( A \) に対してスカラー \( c \) を掛ける操作は、行列のすべての要素に \( c \) を掛けることを意味します。

例えば、行列 \( A \) が次のような形をしているとします:

$$
\( A = \begin{pmatrix} 2 & 4 \\ 3 & 6 \end{pmatrix} \)
$$

スカラー \( c = 2 \) を掛けると、次のような行列になります。

$$
2A = \begin{pmatrix} 4 & 8 \\ 6 & 12 \end{pmatrix}
$$

行列同士の四則演算

行列同士の四則演算には、加法、減法、行列の積があります。

それぞれ、行列の次元や条件に応じた特定のルールが必要です。

行列 + 行列

行列同士の加法は、同じ次元の行列のみが行える演算です。対応する要素同士を単純に足す操作です。

例えば、次の行列 \( A \) と \( B \) について考えます:

$$
A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix}, \quad B = \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 7 & 8 \end{pmatrix}
$$

この場合、行列の加法は次のように計算されます:

$$
A + B = \begin{pmatrix} 1+5 & 2+6 \\ 3+7 & 4+8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 6 & 8 \\ 10 & 12 \end{pmatrix}
$$

行列 − 行列

行列の減法も、加法と同様に同じ次元の行列同士で対応する要素を引きます。

例えば、行列 \( A \) と \( B \) の減法は以下のように計算されます:

$$
A – B = \begin{pmatrix} 1-5 & 2-6 \\ 3-7 & 4-8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} -4 & -4 \\ -4 & -4 \end{pmatrix}
$$

行列 × スカラー

行列とスカラーの掛け算は前述の通り、行列のすべての要素にスカラーを掛けます。

例えば、行列 \( A \) にスカラー \( 3 \) を掛けると次のようになります:

$$
3A = \begin{pmatrix} 3 & 6 \\ 9 & 12 \end{pmatrix}
$$

行列 × 行列

行列の掛け算は他の演算と異なり、少し複雑です。

行列の掛け算が定義されるためには、最初の行列の列数が、次の行列の行数と一致する必要があります

例えば、行列 \( A \) が \( 2 \times 3 \) で、行列 \( B \) が \( 3 \times 2 \) であれば、掛け算が可能です。

行列 \( A \) が次のような形をしているとしましょう:

$$
A = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 2 \\ -1 & 3 & 1 \end{pmatrix}
$$

行列 \( B \) が次のような形をしている場合:

$$
B = \begin{pmatrix} 3 & 1 \\ 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}
$$

行列積 \( A \times B \) は次のように計算されます:

$$
A \times B = \begin{pmatrix} (1 \times 3) + (0 \times 2) + (2 \times 1) & (1 \times 1) + (0 \times 1) + (2 \times 0) \\ (-1 \times 3) + (3 \times 2) + (1 \times 1) & (-1 \times 1) + (3 \times 1) + (1 \times 0) \end{pmatrix}
$$

計算すると:

$$
A \times B = \begin{pmatrix} 5 & 1 \\ 4 & 2 \end{pmatrix}
$$

行列積は重要な演算で、特に線形変換やシステムの動作を表す際に使用されます。

特殊な行列

単位行列

単位行列とは、対角線上にすべて1が並び、それ以外の要素が0である正方行列です。次のように表されます:I=(1001)I = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}I=(10​01​)

単位行列は、行列の掛け算において「1」の役割を果たします。任意の行列 AAA に対して A×I=I×A=AA \times I = I \times A = AA×I=I×A=A となります。

逆行列

逆行列とは、ある行列 AAA に対して A×A−1=A−1×A=IA \times A^{-1} = A^{-1} \times A = IA×A−1=A−1×A=I となるような行列 A−1A^{-1}A−1 のことです。逆行列が存在するのは、正方行列でかつ行列の行列式が0でない場合に限られます。逆行列を求めるには、行列式や行基本変形を使った手法が用いられます。

行列同士を利用した連立方程式の解法

連立方程式の解法において、行列を使うことで効率的に解を求めることができます。

特に、行列を使った方法は多くの変数や方程式がある場合に威力を発揮します。

ここでは、行列の基本操作と行基本変形を使って連立方程式を解く方法を解説します。

行列を用いた連立方程式の表現

まず、連立方程式を行列形式で表現することから始めます。

例えば、次の2つの連立方程式を考えます:

$$
\begin{aligned} 2x + 3y &= 5 \\ 4x + y &= 11 \end{aligned}
$$

これを行列で表すと次のように書けます。

$$
\begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 4 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 5 \\ 11 \end{pmatrix}
$$

この式の形は、一般的に次のように表されます。

$$
A \vec{x} = \vec{b}
$$

ここで、

  • \( A \) :係数行列(方程式に含まれる定数の行列)
  • \( \vec{x} \) :未知数 \( x \) と \( y \) を含む列ベクトル
  • \( \vec{b} \) :方程式の右辺の定数ベクトル

行列を使った表現によって、連立方程式を一つの行列方程式として簡潔にまとめることができます。

行基本変形を用いた解法

行基本変形とは、行列の行を変形することで、その行列を簡単な形にしていく操作です。

これを用いることで、連立方程式を解くための逆行列や行列の簡約化が行えます。

具体的な操作としては、以下の3つの操作が可能です:

  1. 行の入れ替え: 2つの行を入れ替える。
  2. 行の定数倍: ある行全体を定数倍する。
  3. 行の加減算: ある行に他の行を加える、または引く。

これらの行基本変形を使って、連立方程式を解く「ガウス・ジョルダン法」を見ていきましょう。

ガウス・ジョルダン法

ガウス・ジョルダン法は、行列を「階段行列」に変換して解を得る手法です。

先ほどの行列方程式に対して、次の手順で解を求めます。

  1. 行列の拡大係数行列を作成
    行列 \( A \) と \( \vec{b} \) を1つの行列に結合した拡大係数行列を作ります:

$$
\begin{pmatrix} 2 & 3 & | & 5 \\ 4 & 1 & | & 11 \end{pmatrix}
$$

  1. 行基本変形を適用して上三角行列に変形
    最初に、1行目の係数を利用して2行目を操作します。
    まず、1行目を2倍してから2行目を引きます:

$$
\begin{pmatrix} 2 & 3 & | & 5 \\ 0 & -5 & | & 1 \end{pmatrix}
$$

  1. 下三角行列の作成
    次に、2行目の係数を利用して1行目を操作します。
    2行目を5分の1倍してから、1行目の対応する係数を打ち消します:

$$
\begin{pmatrix} 1 & 0 & | & 2 \\ 0 & 1 & | & -\frac{1}{5} \end{pmatrix}
$$

この結果、連立方程式の解は次のように得られます:

$$
x = 2, \quad y = -\frac{1}{5}
$$

逆行列を使った解法

もう一つの方法として、行列の逆行列を利用した解法があります。

係数行列 \( A \) の逆行列 \( A^{-1} \) を求めて、次のように解を表現します:

$$
\vec{x} = A^{-1} \vec{b}
$$

ただし、逆行列は必ずしも存在するわけではないため、逆行列が存在する条件(行列式が0でないこと)を確認する必要があります。


行列を使った解法のまとめ

行列を使って連立方程式を解く方法は、大規模なデータを扱う場合や、コンピュータを使った計算に非常に有効です。

行基本変形や逆行列を用いることで、手計算では難しい問題も効率的に解くことができます。

まとめ

この記事では、線形代数における基本的な概念と計算方法について説明しました。

線形代数は、ベクトルや行列を操作する数学の一分野であり、現代の科学技術、データ処理、さらには機械学習や物理シミュレーションなど、様々な応用分野で重要な役割を果たしています。

主なポイント

  1. 線形代数とは
    線形代数は、数値やベクトル、行列の関係を操作し、連立方程式や空間の変換などを扱う数学の分野です。特にコンピュータサイエンスや物理学などで頻繁に利用されます。
  2. 行列とは
    行列は、数値を格子状に配置したもので、ベクトルや複雑なシステムを簡潔に表現するために使われます。
    行列の基礎的な構造やベクトルとの関係を理解することが重要です。
  3. 行列の四則演算
    行列同士の加法、減法、スカラー倍、そして行列の掛け算について学びました。
    特に、行列の積は独特な計算方法を持ち、線形代数における重要な演算の一つです。
  4. 特殊な行列
    単位行列と逆行列は、行列演算において重要な役割を果たします。
    単位行列は「1」の役割を持ち、逆行列は行列の「逆数」のようなものです。
  5. 行列を利用した連立方程式の解法
    行基本変形や逆行列を使った連立方程式の解法を学びました。
    特にガウス・ジョルダン法は、行列を使って効率的に方程式を解く方法です。

線形代数の応用

線形代数は、理論的な数学だけでなく、実社会の様々な問題を解決するためのツールとしても活用されています。

例えば、グラフィックス処理や人工知能、ロボティクス、金融工学など、多くの分野で行列が使われています。

したがって、線形代数を理解することは、データを扱う全ての分野において重要です。


この記事を通じて、線形代数の基本的な概念と計算方法が理解できたでしょうか?

今後の学習や実践で活用していただければ幸いです。

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