はじめに
建物周りの流れ解析は、都市計画や建築設計において非常に重要な工程です。
風環境の評価では、従来の風洞実験に加えて、CFD(数値流体力学)を利用したシミュレーションが広く採用されています。
本記事では、日本建築学会が提供する「都市の風環境予測のためのCFDガイドブック」のDケースモデルを使用し、OpenFOAMを用いて建物周りの流れを解析する手順を紹介します。
モデル形状の取得
解析に使用する建物群のモデルは、日本建築学会の公式サイトからダウンロードできます。
このモデルは、都市部の建物配置を模したもので、風環境のシミュレーションに最適化されています。
FreeCADによる解析モデルの作成
次に、FreeCADを使用してモデルを作成します。
- FreeCADを起動し、ダウンロードしたモデルデータを読み込みます(図2参照)。
- 風洞部分を追加し、建物群モデルをブーリアン演算により切り抜きます。これにより、風洞実験を模倣した解析モデルが完成します(図3参照)。
- 完成したモデルを面要素に分解し、流入口、流出口、建物表面、地面、その他の面ごとにstlファイルとして出力します。
図2: 建物をモデリング
図3: 風洞部分から建物を切り抜き、モデルを面要素に分解
ブーリアン演算や面分割の具体的な操作については、こちらの過去の記事をぜひご参照ください。
XSimでの条件設定
FreeCADで作成したstlファイルを使用し、XSimで解析条件を設定します。
- XSimに接続し、プロジェクトを作成します。stlファイルをインポートし、必要に応じてスケールを調整します(図4参照)。
- 再分割領域を設定し、建物群周囲のメッシュを細かく分割します(図5参照)。
- レイヤーメッシュを建物表面と地面に設定し、境界層の解析を可能にします(図6参照)。
図4: 形状のインポートとスケール変更
図5: 再分割領域設定
図6: レイヤーメッシュ設定
次に、解析の基本設定を行います。
- 定常計算を選択し、終了サイクルを500に設定します。乱流モデルには標準k-εモデルを選択します(図7参照)。
- 物性設定ではAirを選択し、初期条件として静止状態を設定します(図8, 図9参照)。
- 境界条件では、流入側の流速を5m/s、流出側を自然流入出に設定し、建物表面と地面に静止壁を設定します(図10参照)。
図7: 基本設定
図8: 物性設定
図9: 初期条件設定
図10: 境界条件設定
最後に、計算設定と出力設定を行います。
- 並列数を設定し、出力間隔を入力します(図11, 図12参照)。
- OpenFOAM形式でファイルをエクスポートし、解析ファイルをダウンロードします(図13参照)。
図11: 計算設定
図12: 出力設定
図13: 解析ファイルをエクスポート
OpenFOAMでの計算実行
XSimでエクスポートした解析ファイルをOpenFOAMで実行します。
- ダウンロードしたzipファイルを展開し、ターミナルを起動します。
Allrun
ファイルに実行権限を与え、./Allrun
コマンドを入力して計算を開始します。
OpenFOAMの計算実行についての詳細は、こちらの過去の記事をぜひご覧ください。
ParaViewでの結果可視化
解析が完了したら、ParaViewを使用して結果を可視化します。
paraFoam
コマンドを入力し、ParaViewを起動します。- 結果を可視化し、建物周りの流速分布や風の流れを確認します(図14~図16参照)。
図14: 水平断面流速コンター図
図15: 垂直断面流速コンター図
図16: 45度回転時の水平断面流速コンター図
ParaViewの操作に関しては、「いきなりOpenFOAM第3回」や「第4回」、「第8回」を参考にしてください。
まとめ
本記事では、OpenFOAMを使用した建物周りの流れ解析の手順を紹介しました。
今回使用したモデルは、日本建築学会のガイドブックに基づくもので、都市部の風環境解析に応用できるものです。実際のプロジェクトでは、より詳細な設定が必要になる場合がありますので、適宜調整してください。
次回は、OpenFOAMを使ってオリフィス係数を解析する方法について解説します。興味のある方は、ぜひ次回もご覧ください。
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