撹拌レイノルズ数とは:理論と応用を徹底解説

CAE用語
スポンサーリンク

撹拌レイノルズ数の理論と応用

一言で表すと、、

撹拌レイノルズ数(Re)は、撹拌時の流体の流れが層流、遷移域、または乱流のどの状態にあるかを示す指標です。

流体の粘度、回転数、翼径などのパラメータに基づき、無次元数として計算されます。

概要

撹拌レイノルズ数は、流れの乱れ具合を表すレイノルズ数を撹拌に応用したもので、無次元数として定義されます。

一般的なレイノルズ数の詳細な説明はこちら

撹拌レイノルズ数(Re)は、次の式で表されます:

$$
\text{Re} = \frac{\rho n d^2}{\mu}
$$

ここで、

  • \( \rho \) :液密度 [kg/m³]
  • \( n \) :回転数 [1/s]
  • \( d \) :翼径 [m]
  • \( \mu \) :液粘度 [Pa・s]

撹拌レイノルズ数の値により、流体の状態が

  • 層流(Re≦50)
  • 遷移域(50<Re<1000)
  • 乱流(Re≧1000)

のいずれかに分類されます。

工業的には、撹拌が効率的に行われる乱流域での操作が理想的です。

層流は装置内に流れのよどみを生じやすく、濃度分布、温度分布の原因となります。
装置の汚れや腐食もこのような滞留部で発生することが多いです。

イメージ

撹拌レイノルズ数は、流体中の粒子や物質がどのように混ざり合うかを直感的に理解するための指標です。

層流では流れが整然としており、混合が不十分な一方で、乱流では流れが激しく、効率的な混合が行われます。

例えば、撹拌槽内の液体がスムーズに回転している場合は層流ですが、液体が激しく乱れ、均一に混ざっている状態が乱流です。

定義

撹拌レイノルズ数は、流体力学におけるレイノルズ数を撹拌プロセスに適用したもので、次の式で定義されます:

$$
\text{Re} = \frac{\rho n d^2}{\mu}
$$

この式では、

  • \( \rho \) :液密度 [kg/m³]
  • \( n \) :回転数 [1/s]
  • \( d \) :翼径 [m]
  • \( \mu \) :液粘度 [Pa・s]

が関与します。

この数値を元に、流体の動きがどのように進行しているかを評価します。

CAEにおける重要性

撹拌レイノルズ数は、コンピュータ支援エンジニアリング(CAE)解析において、流体シミュレーションや撹拌プロセスの最適化に欠かせないパラメータです。

特に、撹拌槽の設計や混合効率の予測において、層流や乱流の境界を把握することが重要です。

CAEを活用することで、撹拌レイノルズ数に基づいたシミュレーションが可能となり、撹拌プロセスの最適化に貢献します。

撹拌レイノルズ数の使用例

撹拌におけるレイノルズ数(撹拌Re)は、他の無次元数と組み合わせて使用されることが一般的です。

ここでは、その代表的な使用例について解説します。

動力数(Np)の算出

撹拌槽で使用される動力数(Np)は、撹拌Reとの関係を示すNp-Re曲線から求められます。

化学工学会 監修 "最新 ミキシング技術の基礎と応用"
引用元:最新 ミキシング技術の基礎と応用, 化学工学会 監修 

これは、撹拌翼の特性を表す重要な曲線で、動力効率を評価する際に役立ちます。

  • 層流域(低Re)
    撹拌Reが小さい層流域では、動力数Npは撹拌Reに逆比例し、効率の良い撹拌が期待できます。
  • 乱流域(高Re)
    撹拌Reが大きくなる乱流域では、撹拌槽内の「邪魔板(バッフル)」の有無が動力数Npに影響を与えます。
    • 邪魔板がある場合:乱流域では動力数は一定の値を示します。
    • 邪魔板がない場合:撹拌Reが増加すると、動力数Npはわずかに減少する傾向があります。

実際の工業プロセスでは、撹拌レイノルズ数を計算し、Np-Re曲線を使用して動力数Npを求めるか、
式で表された場合にはその定式化された式に撹拌レイノルズ数を代入して動力数を計算します。

動力数とレイノルズ数の関係の詳細な説明はこちら

境膜伝熱係数 \( h \) 及び、ヌセルト数 \( Nu \) との関係

撹拌槽内での伝熱性能を評価するためには、境膜伝熱係数(\( h \) )とヌセルト数(\( \text{Nu} \) )の関係が重要です。

伝熱は撹拌によって促進されるため、これらの指標は撹拌効率を向上させるために役立ちます。

ヌセルト数(\( \text{Nu} \) )は、撹拌レイノルズ数(\( \text{Re} \) )およびプラントル数(\( \text{Pr} \) )を用いて次の相関式で表されます:

$$
\text{Nu} = C \text{Re}^{a} \text{Pr}^b \left( \frac{\mu}{\mu_w})^c
$$

ここで、

  • \( C, a, b, c \) :経験的に決まる係数
  • \( \text{Pr} \) :プラントル数
  • \( \mu \) :バルク流体の粘度 [Pa・s]
  • \( \mu_w \) :壁面近傍の粘度 [Pa・s]

この式により、撹拌レイノルズ数やプラントル数に基づいてヌセルト数を算出し、それにより境膜伝熱係数( \( h \) )を求めることができます。

境膜伝熱係数 \( h \) は、流体と撹拌槽壁面の間での熱移動の効率を表し、境膜伝熱係数 \( h \) が高いほど熱伝達が良好であることを意味します。

撹拌プロセスでは、効率的な熱伝達が非常に重要であり、例えば撹拌槽内の温度を均一に保つために、この境膜伝熱係数を考慮した設計が求められます。

撹拌レイノルズ数が大きい乱流状態では、熱伝達が促進され、境膜伝熱係数も高くなり、伝熱効率が向上します。

物理的意味合い

撹拌レイノルズ数は、流体の粘性力と慣性力の比率を表しています。

具体的には、低い撹拌レイノルズ数(層流)は粘性力が支配的であり、流れがスムーズであることを示します。
一方、高い撹拌レイノルズ数(乱流)は慣性力が支配的で、流れが乱れて激しく混合が進むことを示します。

これにより、撹拌プロセスの効率や設計において、どの流れ状態が適しているかを判断できます。

まとめ

撹拌レイノルズ数は、撹拌プロセスにおける流体の状態を判断するための重要な指標です。
層流、遷移域、乱流の各段階において、撹拌効率や混合性能が大きく異なります。

特に工業的には、乱流域での撹拌が効率的であるため、これを基準に設計が行われることが一般的です。
また、撹拌レイノルズ数はCAE解析においても重要な役割を果たし、設計の最適化に寄与します。

さらに、ヌセルト数と境膜伝熱係数との関係を理解することで、撹拌槽内での熱伝達性能を最適化し、効率的な撹拌プロセスを実現できます。

コメント