自動車開発において、空力性能は車両の燃費や走行安定性に直結する重要な要素です。
そのため、多くの自動車メーカーは風洞実験を通じて車両の空気抵抗を測定し、改善を図っています。
しかし、実際の風洞実験はコストや時間がかかるため、近年ではCFD(Computational Fluid Dynamics)を用いたシミュレーション解析が広く利用されるようになっています。
本記事では、実際の車両開発における風洞実験をCFDシミュレーションで再現し、その結果を解析する事例をご紹介します。
風洞実験とCFD解析の基礎
風洞実験は、実際の車両モデルを風洞内に設置し、風速や風向を調整して空気の流れを観測する方法です。
一方、CFD解析はコンピュータ上で車両周りの空気の流れをシミュレートする技術です。
CFD解析は、物理的なモデルを作成する必要がなく、複雑な空力現象を高精度に再現できるため、開発コストの削減や開発期間の短縮に寄与しています。
今回の解析事例では、スポーツカーの風洞実験で設計検証される車両周囲の空気の流れ(流線)を、CFDシミュレーションによって再現し、可視化しました。
解析情報
基本情報
- ソフトウェア : SIEMENS STAR-CCM+
- メッシュ : トリムメッシュ、プリズムレイヤー(3次元モデル)
- セル数 : 約220,000
- 内部フェイス : 約680,000
- 節点 : 約250,000
物理モデル
- 手法:定常解析
- 流体:非圧縮性気体
- 流れ:分離型流れ
- 乱流モデル : RANS, k-ω SST モデル
境界条件、初期条件、他
- 入口境界条件 : 下図のように、車両の正面に向かって流速 30 [m/s] の空気が流入
- 出口境界条件 : 車両後方の出口は開放 (ゲージ圧力ゼロ)
解析結果
流線の可視化
以下の画像は、車両周囲の空気の流れを数値流体力学(CFD)解析によって可視化したものです。
上段は「流速コンター図」であり、下段は「流線コンター図」となっています。
流速コンター図
上段の「流速コンター図」は、車両周りの空気の流れの速度分布を示しています。
色分けされた領域は、空気の速度を視覚的に表しており、特に車両の前方と後方に注目すると、空気が車両に当たり、流れが加速または減速している様子が見て取れます。
赤い領域は高速度の部分を、青い領域は低速度の部分を示しており、車両の形状がどのように空気の流れに影響を与えているかを直感的に理解することができます。
流線コンター図
下段の「流線コンター図」は、車両周囲の空気の流れの経路を示しています。
流線は、空気がどのように車両の形状に沿って流れるかを視覚化したものであり、特に車両後方での渦の発生や乱流の状況を確認するのに役立ちます。
車両の設計においては、このような流れの特徴が空気抵抗に影響を与え、燃費や走行性能に直結します。
まとめ
今回の事例では、CFD解析を用いて風洞実験を再現することで、車両の空力性能を効率的に評価できることを示しました。
特に流速コンター図は、設計の初期段階で空気の流れが車両のどの部分に集中し、どの部分で渦が発生しやすいかを明確に示してくれます。
一方で流線コンター図は、車両の後方での空気の挙動を詳しく分析することができ、トレーリングエッジやディフューザーの設計改善に役立てることができます。
このような可視化技術を活用することで、設計者は車両の空力特性を最適化し、燃費の向上や走行安定性の改善を実現することが可能です。
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