NPSH(Net Positive Suction Head)の詳細解説:ポンプのキャビテーション防止

化学工学
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NPSHとは

ポンプ運転において、キャビテーション(Cavitation)の発生を防ぐための指標が NPSH(Net Positive Suction Head、正味吸込み揚程) です。

キャビテーションとは、ポンプ内で液体が蒸発し、小さな気泡が発生する現象です。

この気泡は不安定で、生成と消滅を繰り返しますが、消滅する際には強力な衝撃波を伴い、ポンプの騒音や振動、さらにはポンプ部品の損傷の原因となります。

特にポンプの羽根車にダメージを与えるため、長期間の運転でポンプの性能を低下させる恐れがあります。

このような状況を避けるため、ポンプの設計や運転時にはNPSHの適切な管理が不可欠です。

NPSHの種類

NPSHには、主に以下の2種類があります。

NPSH available ( \( NPSH_{ava} \) ):有効吸込み揚程

これはポンプに供給される流体の圧力が、その流体の蒸気圧よりどれだけ高いかを表します。

流体が蒸発しないために必要な圧力差を示し、単位は[m]です。

NPSH required ( \( NPSH_{req} \) ):必要吸込み揚程

ポンプがキャビテーションを発生させずに運転できるために、最低限必要な圧力差です。

この値はポンプの性能に依存し、ポンプメーカーのカタログ等で確認することが一般的です。

NPSHの計算方法

キャビテーションを防ぐためには、次の関係式が成り立つ必要があります。

$$
NPSH_{ava} > NPSH_{req}
$$

この条件が満たされている場合、キャビテーションは発生しません。

一般的には、設計時に余裕を持たせるため、\( NPSH_{req} \) に対して1.3倍程度の余裕を見込むことがあります。
また、\( NPSH_{ava} \) が \( NPSH_{req} \) より+1m以上であることが推奨されます。

\( NPSH_{ava} \) の算出方法

\( NPSH_{ava} \) は、主にポンプの設置条件に依存します。

ポンプがどのような条件で運転されるかによって、\( NPSH_{ava} \) の値は変わります。

ポンプの据付位置が吸込み液面より高い場合

ポンプが吸込み液面より上に設置されている場合、次の式で \( NPSH_{ava} \) を計算します。

$$
NPSH_{ava} = \frac{p_a}{\rho g} – h_s – h_f – \frac{p_{vp}}{\rho g}
$$

  • \( p_a \) : 吸込み液面にかかる圧力 [Pa]
  • \( \rho \) : 液体の密度 [kg/m³]
  • \( g \) : 重力加速度 [m/s²]
  • \( h_s \) : 吸込み実揚程 [m]
  • \( h_f \) : 配管損失水頭 [m]
  • \( p_{vp} \) : 液体の蒸気圧 [Pa]

ポンプの据付位置が吸込み液面より低い場合

ポンプが吸込み液面より下にある場合、\( NPSH_{ava} \) は以下の式で計算します。

$$
NPSH_{ava} = \frac{p_a}{\rho g} + h_s – h_f – \frac{p_{vp}}{\rho g}
$$

ポンプが液面より低い位置にあることで、液体のヘッドがかかり、蒸発が抑制されるため、\( NPSH_{ava} \) の値は高くなります。

\( NPSH_{req} \) の算出方法

NPSHreqは、ポンプメーカーのカタログ等に記載されている場合が多く、その値を利用するのが最も簡単です。

もしカタログに吸込比速度(S)のデータが載っている場合は、以下の式で\( NPSH_{req} \) を計算することも可能です。

$$
NPSH_{req} = \left( \frac{n \sqrt{Q}}{S} \right)^{\frac{4}{3}}
$$​

  • \( n \) : 回転数 [min⁻¹]
  • \( Q \) : 吐出し量 [m³/min]
  • \( S \) : 吸込比速度 [-]

ただし、吸込比速度はポンプの形式や吐出し量で変化するため、データがない場合はポンプメーカーに問い合わせることが推奨されます。

設計時のポイント

ポンプの据付位置

ポンプの設置位置はキャビテーション発生の防止に大きく影響します。

ポンプを吸込み液面より低い位置に据え付けることで、\( NPSH_{ava} \) が高くなり、キャビテーション発生を抑制できます。

これは、液体の蒸発を防ぎ、効率的なポンプ運転を実現するためです。

吸込み側の静圧

吸込み側が大気圧に開放されている場合、吸込み液面にかかる圧力(pa)は大気圧となります。

逆に、加圧系や減圧系のシステムでは、装置内の圧力に依存するため、その圧力を正確に把握する必要があります。

液体の蒸気圧

蒸気圧の高い液体を扱う場合、特に注意が必要です。

有機溶剤などの蒸気圧が高い液体は、\( p_{vp}/\rho g \) の値が大きくなる傾向があるため、キャビテーションのリスクが高まります。

まとめ

NPSHは、ポンプ運転においてキャビテーションを防ぐために非常に重要な指標です。

ポンプの運転条件を正しく理解し、\( NPSH_{ava} \) と \( NPSH_{req} \) をしっかりと確認することが、ポンプの効率的かつ安全な運転に繋がります。

最低でも、\( NPSH_{ava} \) の計算方法を理解しておくことが大切です。

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