配管や熱交換器の伝熱管内を流れる流体の熱交換効率を決定する重要な要素に境膜伝熱係数があります。
この係数は、管内で流れる流体と管壁の間でどれだけ効率的に熱が伝わるかを示します。
本記事では、境膜伝熱係数の理論と計算式について解説し、特にコルバーンの実験式、Siederの式、Hausenの式という3つの代表的な相関式について詳しく説明します。
境膜伝熱係数とは
境膜伝熱係数とは、管内を流れる流体が管壁を通じて熱交換する際に、その熱の伝達を表す指標です。
流体の流動状態(層流、乱流)や、流体の特性(粘度、比熱、熱伝導率など)により、境膜伝熱係数は変わります。
効率的な熱交換を実現するためには、この係数を正確に求めることが重要です。
管内側境膜伝熱係数の相関式:配管や熱交換器
配管内の流れは他の流動よりもシンプルなため、いくつかの相関式が提案されています。
ここでは、特にコルバーンの実験式、Siederの式、Hausenの式について説明します。
コルバーンの実験式
コルバーンの実験式は、比較的シンプルな相関式であり、学生時代に多くの技術者が学ぶ基礎的な式の一つです。
乱流の範囲で適用でき、以下の式で表されます。
$$
Nu = \frac{h_i D}{\rambda} = 0.023 Re^{0.8} Pr^{0.4}
$$
ここで、
- \( Nu \) : ヌセルト数 [-]
- \( h_i \) : 管内側境膜伝熱係数 [W/(m² K)]
- \( D \) : 管内径 [m]
- \( \rambda \) : 流体の熱伝導率 [W/m K]
- \( Re \) : レイノルズ数 [-]
- \( Pr \) : プラントル数 [-]
適用範囲
- 10,000 ≦ Re ≦ 120,000
- 0.7 ≦ Pr ≦ 120
- L/D ≧ 60
この式は乱流の範囲でよく適用され、適用範囲はやや狭いものの、単純で計算しやすいという利点があります。
Siederの式
Siederの式は、レイノルズ数やプラントル数に加え、流体の粘度も考慮した式です。
流体の粘性が温度に依存する場合、特に有効です。
$$
Nu = \frac{h_i D}{\rambda} = j_H Pr^(1/3) (\mu/\mu_w)^{0.14}
$$
ここで、
- \( Nu \) : ヌセルト数 [-]
- \( h_i \) : 管内側境膜伝熱係数 [W/(m² K)]
- \( D \) : 管内径 [m]
- \( \rambda \) : 流体の熱伝導率 [W/(m K)]
- \( j_H \) : 無次元因子 [-](表から読み取る値)
- \( Pr \) : プラントル数 [-]
- \( \mu \) : 流体の粘度 [Pa・s]
- \( \mu_w \) : 壁面での流体粘度 [Pa・s]
適用範囲
- Pr ≧ 0.7
Siederの式は、層流にも乱流にも対応でき、広い適用範囲を持つため、実際の設計において非常に役立ちます。
ただし、\( j_H \) 因子は対数グラフなどから読み取る必要があり、少し手間がかかる場合があります。
3. Hausenの式
Hausenの式は、乱流だけでなく遷移領域にも対応できるため、幅広いレイノルズ数範囲に適用可能な相関式です。
$$
Nu = \frac{h_i D}{\rambda} = 0.116 * [Re^{2/3} – 125] * Pr^{1/3} * [1 + (D/L)^{2/3}] * (\mu/\mu_w)^0.14
$$
ここで、
- \( Nu \) : ヌセルト数 [-]
- \( h_i \) : 管内側境膜伝熱係数 [W/(m² K)]
- \( D \) : 管内径 [m]
- \( \rambda \) : 流体の熱伝導率 [W/(m K)]
- \( Re \) : レイノルズ数 [-]
- \( Pr \) : プラントル数 [-]
- \( L \) : 配管長さ [m]
- \( \mu \) : 流体の粘度 [Pa・s]
- \( \mu_w \) : 壁面での流体粘度 [Pa・s]
適用範囲
- 2,320 ≦ Re ≦ 100,000
- 0.6 ≦ Pr ≦ 500
- L/D ≧ 1
Hausenの式は、遷移領域から乱流までの広い範囲に適用できるため、非常に汎用性があります。
まとめ
配管や熱交換器内の境膜伝熱係数を計算するためには、流体の流れに応じた相関式を選ぶことが重要です。
コルバーンの実験式、Siederの式、Hausenの式はそれぞれ異なる適用範囲を持ち、流動状態や設計条件に応じて使い分ける必要があります。
正確な境膜伝熱係数を求めることで、効率的な熱交換器設計が可能になり、エネルギーコストの削減や設備の長寿命化に貢献します。
実際の設計においては、これらの式を適用しつつ、実験データやシミュレーション結果を組み合わせて精度を向上させることが求められます。
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