流体計の種類と特徴
流量計は、工場やプラントにおいて非常に重要な計測機器です。
工場で使用される設備は、処理できる流量に限界があり、これを正確に管理することが必要です。
流量計を適切に選定することにより、プロセスの効率を高め、エネルギーの節約やコスト削減に寄与します。
しかし、工場で取り扱う流体やプロセス条件は非常に多様であり、それぞれに最適な流量計を選ぶ必要があります。本記事では、代表的な流量計の種類や特徴、適用条件について詳しく解説します。
1. 差圧式流量計
原理と仕組み
差圧式流量計は、管内に設置された絞り機構(オリフィス、ノズル、ベンチュリ管など)を利用して流量を測定します。
流体が絞りを通過すると圧力差が生じ、この差圧を計測することで流量を算出します。
一般的に、差圧は流量の二乗に比例します。
長所
- 国際規格の整備:差圧式流量計は国際的な規格が整備されており、信頼性の高い計測機器です。
- シンプルな構造と低コスト:装置の構造が簡単で、価格が比較的安価であるため、導入しやすい。
- 多用途:液体、気体、蒸気のいずれにも対応できるため、幅広いプロセスに適用可能。
- メンテナンスが容易:可動部がないため、メンテナンスや保守が比較的簡単です。
短所
- 測定範囲が狭い:差圧が流量の二乗に比例するため、広い流量範囲での正確な測定が難しく、実質的な測定範囲は狭くなります。
- 圧力損失が大きい:特にオリフィスを使用する場合、流体が通過する際の圧力損失が大きく、エネルギー効率が低下します。
- 固形物や気泡を含む流体には不向き:このような流体では、絞り機構が詰まりやすく、正確な測定が困難です。
- 脈動流には不適:脈動のある流体には対応しにくく、安定した測定が難しいです。
- 直管部が必要:絞り機構の前後には長い直管部が必要で、設置場所の自由度が限られます。
適用流体
差圧式流量計は液体、気体、蒸気に適用可能であり、スラリーや高粘度流体にも部分的に対応します。
ただし、固形物や気泡を含む流体は避けるべきです。
また、脈動流体にも使用可能ですが、制約があるため注意が必要です。
2. 面積式流量計
原理と仕組み
面積式流量計は、差圧式流量計と同様に、絞り機構を利用して流量を測定しますが、最大の違いは、絞り部分の面積が流体の流れに応じて変化することです。
圧力差が一定となるように、流体が流れる際に流路の断面積が変わり、その変化を利用して流量を測定します。
代表的なものには、フロートを使ったものがあります。
長所
- 動力源が不要:目視で流量を読み取るタイプでは、動力源を必要としないため、電源がない場所でも使用可能です。
- 低コスト:他の流量計に比べて構造がシンプルで安価です。
- 多用途:液体、気体、蒸気のいずれにも対応可能で、幅広い用途で利用されます。
- 圧力損失が小さい:差圧式流量計に比べて、圧力損失が少なく、エネルギー効率が良い。
- 直管部が不要:面積式流量計は直管部を必要としないため、設置場所の自由度が高いです。
短所
- 測定精度が低い:通常、測定誤差はスパンの1.5~3.0%とされており、他の流量計に比べて精度が劣ることがあります。
- 固形物を含む流体には不適:固形物が含まれている場合、計測の妨げになることが多く、正確な流量を測定できない場合があります。
適用流体
面積式流量計は、液体、気体、蒸気の測定に適しています。
ただし、固形物を含む流体や高粘度流体に対しては不向きです。
また、スラリーのように不均一な流体には適用しづらいですが、比較的簡易な用途や実験室などではよく使われます。
3. 電磁式流量計
原理と仕組み
電磁式流量計は、ファラデーの電磁誘導の法則を利用して流量を測定します。
導電性のある液体が磁界を通過する際に誘導される電圧を測定し、その電圧から流体の流速を計算します。
電磁式流量計は、導電性液体に対して優れた精度で体積流量を測定することができるため、化学、食品、製薬などの業界で広く使用されています。
長所
- 高精度な測定:測定精度は非常に高く、誤差は指示値の±0.5%程度です。
液体の温度や圧力、密度、粘度の影響をほとんど受けないため、安定した測定が可能です。 - 圧力損失がない:管内に障害物がなく、流体が妨げられないため、圧力損失が発生しません。
- 可動部がない:構造上、可動部が存在しないため、機械的な摩耗や故障のリスクが少なく、メンテナンスがほとんど不要です。
- 幅広い流量範囲に対応:流量レンジが広く、さまざまな流量条件で使用可能です。
- 固形物や気泡を含む液体にも対応可能:スラリーや気泡を含んだ液体の体積流量測定が可能です。
- 正逆流の測定が可能:液体の流れが正逆どちらの方向でも測定できるため、双方向の流れをモニタリングできます。
短所
- 導電性がない液体には使用不可:電磁式流量計は導電性液体専用であり、導電率が 5 μS/cm 以下の液体や気体、蒸気の測定には不適です。
例えば純水や油などの液体には使用できません。 - 高温流体の測定が難しい:接液部にライニング材(内張り)が使用されているため、高温の液体には使用が制限される場合があります。
適用流体
電磁式流量計は、導電性を持つ液体の測定に特化しています。
スラリーのように固形物が含まれている流体にも適用可能で、高粘度流体にも強いですが、気体や蒸気には対応できません。
また、導電率が極めて低い液体は測定できないため、注意が必要です。
4. 超音波流量計
原理と仕組み
超音波流量計は、流体に超音波を伝播させ、その伝播時間や周波数の変化を測定することで、流量を算出します。
主に「伝播時間差式」と「ドップラー式」の2種類があります。
前者は流速が速いほど伝播時間が短くなる原理を利用し、後者は流体中の粒子や気泡が反射した超音波のドップラー効果を利用します。
長所
- 圧力損失がない:超音波流量計は非接触式であり、管の外側から取り付けることができるため、流体の流れに影響を与えず、圧力損失が発生しません。
- 後付けが可能:クランプオン形では、管の外側に取り付けるだけで測定ができるため、既存の配管にも容易に設置可能です。
- 大口径管に対応:大口径の配管にも適しており、その場合、他の流量計に比べてコストパフォーマンスが優れています。
- 持ち運びが可能:クランプオン形は可搬性があり、持ち運んでさまざまな場所での測定が可能です。
- 正逆流の測定が可能:流れの方向が正逆いずれでも測定できます。
短所
- 管の材質に制約:クランプオン形の場合、管の材質や厚みによっては測定が困難になることがあります。
- 測定対象に制約:伝播時間差式では、固形物や気泡が多い流体では正確に測定できず、逆にドップラー式は、粒子や気泡がない液体では測定できません。
- 流速分布の影響:超音波流量計は本質的に流速計であるため、流速分布の影響を受けやすく、管内の流れが安定していないと誤差が生じやすいです。
適用流体
超音波流量計は、液体、気体、蒸気の測定に使用できます。
特に大口径配管での測定に適しており、クランプオン形を使用することで、既存のシステムにも後付け可能です。
ただし、スラリーなど固形物を含む流体には、測定方法によって制約があります。
5. 容積式流量計
原理と仕組み
容積式流量計は、流体を一定の容積で区切り、その容積単位で流量を測定する方式です。
流体が計器内を通過する際に、機械的な動作により流体を一時的に捕獲し、その量を積算して流量を計測します。
機械式の原理で動作するため、外部動力を必要とせず、高粘度流体にも適しています。
長所
- 高精度な積算流量:容積単位で流量を測定するため、積算流量を高精度に測定することができます。
- 高粘度流体に適用:高粘度の流体でも問題なく測定できるため、油やペースト状の液体の測定に適しています。
- 直管部が不要:計器前後に直管部を必要としないため、設置が容易です。
- 外部動力不要:機械的に動作するため、電源などの外部動力を必要とせずに使用可能です。
短所
- 固形物による支障:流体中に固形物が混ざっていると、計器内の回転子に挟まり、計測が妨げられることがあります。
- 圧力損失が大きい:特に粘度の高い流体では、計器内部で流体を押し出す力が必要となり、圧力損失が大きくなります。
- 小流量時の精度低下:粘度が小さい流体の場合、回転子の隙間から流体が漏れやすく、測定精度が低下することがあります。
適用流体
容積式流量計は、液体、特に高粘度の流体に適しています。
固形物やスラリーを含む流体には不向きですが、油やシロップなど粘度の高い流体には非常に適しており、正確な積算流量を測定する用途に向いています。
6. 渦式流量計
原理と仕組み
渦式流量計は、管路内に設置した障害物(渦発生体)の後方に発生するカルマン渦の周波数から、流量を測定する方式です。
渦の発生周期が流速に比例しているため、その周波数を計測することで流体の流速、ひいては流量を算出します。
長所
- シンプルで安価:構造が非常にシンプルで、他の流量計に比べて低コストで導入可能です。
- 可動部がない:メカニカルな可動部がないため、摩耗による故障リスクが少なく、メンテナンスが容易です。
- 高精度:液体、気体、蒸気の測定が可能で、測定誤差は±1%程度と比較的高精度です。
- 圧力損失が少ない:差圧式流量計と比較して、圧力損失が少ないです。
短所
- レイノルズ数の制限:レイノルズ数が小さい(流体が非常にゆっくり流れている)場合、渦が安定して発生せず、正確な測定が困難です。
- 固形物や気泡を含む流体に不向き:これらの要素が含まれると、渦の発生が乱れ、正確な測定ができなくなります。
- 高粘度流体には不適:粘性の高い流体では渦が発生しにくく、適用が難しいです。
適用流体
渦式流量計は、液体、気体、蒸気の測定に適しています。
特に圧力損失を抑えたい場合や、低コストでの導入を目指す場合に適していますが、固形物や高粘度の流体には不向きです。
7. タービン式流量計
原理と仕組み
タービン式流量計は、管内を流れる流体の流速によってタービンが回転し、その回転速度から流量を測定します。
タービンの回転速度は流速に比例しているため、回転数を測定して流量を計算することができます。
長所
- 高精度:測定精度が非常に高く、誤差は±0.5%程度で、正確な流量を測定できます。
- 高圧流体に適用:高圧下でも使用可能であり、圧力が高い配管システムにも適しています。
- 小型かつ大流量対応:比較的小型の装置でありながら、大流量の測定が可能です。
短所
- 高粘度流体や固形物を含む流体に不向き:高粘度の流体や固形物が含まれる流体ではタービンの回転が妨げられ、正確な測定が難しくなります。
- 可動部のメンテナンスが必要:タービンが回転するため、定期的に可動部の交換やメンテナンスが必要です。
適用流体
タービン式流量計は、液体および気体に適しており、特に高圧流体の測定に強みを持っています。
しかし、高粘度流体や固形物を含む流体には不向きです。
8. コリオリ式流量計
原理と仕組み
コリオリ式流量計は、U字型やS字型の管を一定の周波数で振動させ、流体が管内を通過する際に発生するコリオリ力(ねじれ角)を測定して、質量流量を直接算出します。
流量計自体の変位やねじれの程度から、質量流量を非常に高精度に測定することが可能です。
長所
- 質量流量の直接測定:体積ではなく質量を直接測定できるため、密度変動の影響を受けにくいです。
- 高精度な測定:測定精度が非常に高く、誤差は±0.3%程度と正確です。
- 広範囲な流体に対応:高粘度流体、固形物を含む流体、高圧流体、脈動流など、幅広い種類の流体に対応可能です。
- 直管部が不要:設置に際して直管部が不要であり、設置の自由度が高いです。
短所
- 高価:他の流量計に比べて価格が高いため、コストが問題になる場合があります。
適用流体
コリオリ式流量計は、液体および固形物を含む流体、さらには高粘度流体や脈動流体にも対応できます。
気体にも対応可能ですが、一般的には液体の測定に特化しています。
各種流量計の比較
流量計 | 適用流体 | レンジアビリティ | 測定精度 | 必要直管長 | 測定可能温度 | 測定可能圧力 |
---|---|---|---|---|---|---|
差圧式 | 液体、気体、蒸気、スラリー、高粘度流体 | 3~10:1 | ±2.0%FS | 長い | -40~650℃ | ~42MPa |
面積式 | 液体、気体、蒸気 | 5~12:1 | ±1.0~2.0%FS | 不要 | -200~450℃ | ~60MPa |
電磁式 | 液体のみ | 50~300:1 | ±0.5~1.0%RD | 短い | -10~180℃ | ~40MPa |
超音波 | 液体、気体、蒸気 | 20~30:1 | ±1.0~1.5%FS | 長い | 0~100℃ (液体)、-30~180℃ (気体) | ~2MPa |
容積式 | 液体、気体、高粘度流体 | 10~20:1 | ±0.2~1.0%RD | 不要 | -30~300℃ | ~10MPa |
渦式 | 液体、気体、蒸気 | 10~40:1 | ±1.0~3.0%RD | 長い | -200~420℃ | ~4MPa |
タービン式 | 液体、気体 | 15~25:1 | ±0.2~0.5%RD | 長い | -250~500℃ | ~10MPa |
コリオリ式 | 液体、固形物含有流体 | 20~100:1 | ±0.3%RD | 不要 | -240~200℃ | ~40MPa |
適用流体の比較
流量計 | 液体 | 気体 | 蒸気 | スラリー | 高粘度流体 | 脈動流体 |
---|---|---|---|---|---|---|
差圧式 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | △ |
面積式 | 〇 | 〇 | 〇 | △ | △ | 〇 |
電磁式 | 〇 | × | × | 〇 | 〇 | 〇 |
超音波 | 〇 | 〇 | 〇 | ×:伝播式、〇:ドップラー式 | 〇 | △ |
容積式 | 〇 | 〇 | × | × | 〇 | 〇 |
渦式 | 〇 | 〇 | 〇 | × | △ | × |
タービン式 | 〇 | 〇 | △ | × | △ | △ |
コリオリ式 | 〇 | △ | × | △ | 〇 | 〇 |
まとめ
流量計の選定は、プラント運転や工場プロセスにおいて非常に重要です。
適切な流量計を選ぶことで、正確な流量の測定が可能となり、エネルギー効率の向上やコスト削減につながります。
各種流量計にはそれぞれ特徴があり、用途に応じて選定することが重要です。
コメント