フーリエの法則について、理論と応用を詳細に解説します。
熱伝導の基本原理から具体的な例まで、実務での応用も踏まえた説明を行っていますので、最後まで読んでいただけると幸甚です。
概要
同一物質内、または密接した物体間で温度差が存在する場合、物質の移動を伴わない熱エネルギーのみの移動現象が発生します。
この現象を「伝導伝熱」と呼び、伝導伝熱における熱エネルギーの移動量を関係付ける法則が「フーリエの法則」です。
フーリエの法則は次の式で表されます。
$$
q = -k \frac{dT}{dx}
$$
ここで、
- \( q \) : 熱流束 [W/m²]
- \( k \) : 熱伝導度 [W/(m・K)]
- \( T \) : 温度 [K]
- \( x \) : 物質の厚み [m]
この式は、熱が高温側から低温側へ、温度勾配に比例して伝わることを示しています。
伝導伝熱は、ほとんどの物理的な環境で発生している重要な熱の移動形態です。
ただし、対流伝熱などと比較すると、伝導伝熱は一般的に熱が伝わりにくい形式でもあります。
そのため、材質選定や熱設計の際には注意が必要です。
特に金属からライニング材に変更する場合など、伝熱の悪化を考慮し、事前に伝熱計算を行って運転に支障がないか確認することが推奨されます。
物質ごとの熱伝導度
熱伝導度は、物質によって大きく異なります。
以下は、代表的な物質の熱伝導度を示した表です(300K、101.3kPaにおける値)。
物質 | 熱伝導度 \( k \) [W/(m・K)] | 物質 | 熱伝導度 \( k \) [W/(m・K)] |
---|---|---|---|
水素 | 0.181 | アルミニウム | 237 |
ヘリウム | 0.153 | マグネシウム | 156 |
メタン | 0.034 | ニッケル | 90.5 |
空気 | 0.026 | 鉄 | 80.3 |
二酸化炭素 | 0.017 | 白金 | 71.4 |
水銀 | 8.52 | 鉛 | 35.2 |
水 | 0.610 | チタン | 21.9 |
アンモニア | 0.479 | 黄銅(Cu-40Z) | 123 |
エチレングリコール | 0.258 | はんだ | 46.5 |
メタノール | 0.208 | 炭素鋼(S35C) | 43.0 |
潤滑油 | 0.086 | ステンレス鋼(SUS304) | 16.0 |
銀 | 427 | チタン合金(Ti-6Al-4V) | 7.60 |
銅 | 398 | サファイア | 46.0 |
金 | 315 | 石英ガラス | 1.38 |
ソーダガラス | 1.03 | アクリル樹脂 | 0.21 |
一般的に、金属は他の物質と比較して熱伝導度が高く、これは実際の体感でも納得できる特徴です。
物質の状態によっても熱伝導度は異なり、固体の熱伝導度 > 液体の熱伝導度 > 気体の熱伝導度 という傾向があります。
例えば、断熱材は低熱伝導度の気体を含む構造を持ち、これにより熱が外部に伝わりにくく設計されています。
フーリエの法則と実務での応用
実務で熱伝導度が必要な場合、文献やデータベースを参照することが一般的です。
また、必要なデータが見つからない場合は、推算して用いることもあります。
熱伝導度はフーリエの法則における比例定数であるため、伝導伝熱の寄与を計算する際に不可欠なデータです。
具体的な例として、以下に伝導伝熱と対流伝熱の比較を示します。
伝導伝熱 vs 対流伝熱の比較
次に、配管内での水の流れを例に、伝導伝熱と対流伝熱の寄与を計算します。
- 流体:25℃の水
- 配管内径:0.1m
- 壁面温度:30℃
まず、伝導伝熱による熱流束は、フーリエの法則式から計算されます。
$$
q = k \frac{T_2 – T_1}{x} = 0.606 \times \frac{30 – 25}{0.05} = 61 \, \text{W/m²}
$$
次に、対流伝熱の熱流束は、ニュートンの冷却法則を用いて、乱流および層流それぞれで計算します。
乱流の場合
配管内の断面平均流速を 1 m/sとすると、レイノルズ数は 112,000 となり乱流になります。
この場合の熱流束は次の通りです。
$$
q_{\text{乱流}} = 3150 \times (30 – 25) = 15750 \, \text{W/m²}
$$
層流の場合
配管内の断面平均流速を 0.01 m/sとすると、レイノルズ数は 1,120 となり層流になります。
この場合の熱流束は次の通りです。
$$
q_{\text{層流}} = 44 \times (30 – 25) = 222 \, \text{W/m²}
$$
このように、乱流では伝導伝熱の寄与は全体のわずか0.4%と非常に小さくなりますが、層流では寄与率が約21.6%となり無視できない大きさになります。
したがって、流体の状態によって伝導伝熱の寄与を考慮するかどうかを判断する必要があります。
まとめ
フーリエの法則は、伝導伝熱の基本式として非常に重要な役割を果たします。
実務においても、流体の流速や熱伝導度などの条件によって伝熱の寄与が大きく変わるため、設計や計算時には注意が必要です。
特に、流体が層流の状態では伝導伝熱の影響が無視できないことが分かりました。これらの知識を活用し、効率的な熱設計を行うことが重要です。
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