ニュートンの冷却法則について、理論とその応用を詳細に解説します。
対流伝熱における熱流束の計算方法から境膜伝熱係数の重要性、具体的な計算式やCFDによる解析まで触れていますので、最後まで読んでいただけますと幸甚です。
概要
温度の異なる物体表面と流体との間には対流伝熱が生じます。
このとき、熱エネルギーの移動量と温度差の関係を表す法則が「ニュートンの冷却法則」です。
ニュートンの冷却法則は以下の式で表されます。
$$
q = h(T_w – T_{\text{bulk}})
$$
ここで、
- \( q \) : 熱流束 [W/m²]
- \( h \) : 境膜伝熱係数 [W/(m²・K)]
- \( T_w \) : 壁面温度 [K]
- \( T_{\text{bulk}} \) : 流体のバルク温度 [K]
この式は、壁面温度と流体のバルク温度の差に比例して、熱が流体へ伝わることを示しています。
フーリエの法則に似ていますが、重要な違いは比例定数の性質です。
フーリエの法則では比例定数が物質固有の「熱伝導度」であるのに対し、ニュートンの冷却法則では「境膜伝熱係数 \( h \)」が流体の流れの状態に依存します。
境膜伝熱係数は流れの速度、流体の性質、表面の粗さなどによって変化し、その算出は実務上非常に重要です。
特に工業分野では、対流伝熱が主要な伝熱形態であり、計算の機会が多い分野です。
境膜伝熱係数の算出方法
境膜伝熱係数 \( h \) は、実務での計算で多く使用される項目です。
次に、代表的な境膜伝熱係数の算出方法について説明します。
1. 熱交換器の管内側境膜伝熱係数
配管や熱交換器の内部を流れる流体の境膜伝熱係数は、次のような式を使用して計算されます。
管内側境膜伝熱係数は、流体の流速や粘度、管の直径などによって決まるため、さまざまな相関式が発表されています。
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2. 熱交換器のシェル側境膜伝熱係数
シェル側では、流体が複雑な流れをするため、バッフルの有無などによって境膜伝熱係数が異なります。
これも相関式を用いて計算しますが、複数のパラメータで補正を行う必要があります。
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3. 撹拌槽の境膜伝熱係数
撹拌槽では、撹拌翼の種類や回転数に応じて槽内側の境膜伝熱係数が決定されます。
撹拌槽内の流動は非常に複雑ですが、研究により比較的簡単な相関式で計算可能です。
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4. 熱流体解析ソフト(CFD)での境膜伝熱係数の計算
近年のコンピュータ技術の発展により、CFD(Computational Fluid Dynamics)を用いた解析が盛んです。
CFDソフトを使うことで、複雑な流れでも境膜伝熱係数を算出できます。
例えば、SIEMENS STAR-CCM+やANSYS Fluentのようなソフトでは「壁熱伝達率」というパラメータが出力され、これを境膜伝熱係数として扱うことができます。
ただし、メッシュの細かさや設定次第では異なる結果が出るため、注意が必要です。
特に、乱流場での解析ではメッシュの配置が重要で、適切にメッシュを切らないと実際の境膜伝熱係数とは異なる値になることがあります。
境膜伝熱係数と壁熱伝達率の違い
CFDソフトが出力する「壁熱伝達率」は、壁面と第一層のメッシュ間の温度差で計算されます。
$$
q = h(T_w – T_{f1})
$$
一方、ニュートンの冷却法則では、壁面と流体のバルク温度の差を用います。
この違いから、メッシュの配置によっては異なる数値が得られることがあるため、解析時には注意が必要です。
最適なメッシュ配置により、ニュートンの冷却法則に基づいた境膜伝熱係数に近い値が得られます。
境膜伝熱係数の実務応用
実務において、境膜伝熱係数の計算は設計や熱解析に欠かせません。
次に、実際に使われる場面での応用例を挙げます。
1. 熱交換器の設計
熱交換器は、工業プラントや発電所などで広く使用されています。
熱交換器内部での伝熱を効率化するためには、境膜伝熱係数を正確に計算し、適切なサイズや流速を設計することが求められます。
管内流れやシェル側流れの両方を考慮して設計を行います。
2. 撹拌槽での熱管理
化学プラントや食品加工工場で使用される撹拌槽では、撹拌による対流伝熱が重要です。
ジャケットやコイルを用いた冷却・加熱の設計には、撹拌槽内の境膜伝熱係数を把握しておくことが重要です。
3. CFD解析による設計最適化
複雑な装置や流れ場では、境膜伝熱係数を実験式で算出するのが難しい場合があります。
CFD解析を活用することで、境膜伝熱係数を詳細に求め、最適な設計や運転条件を導き出すことが可能です。
まとめ
ニュートンの冷却法則は、対流伝熱における基本的な理論であり、実務での応用範囲が非常に広い法則です。
境膜伝熱係数は流体の状態に大きく影響されるため、その算出には経験的な相関式やCFDを用いた解析が必要です。
正確な伝熱計算を行うために、設計者はニュートンの冷却法則と境膜伝熱係数の概念を深く理解し、流体の性質や装置の運転条件に応じた最適な計算手法を選択することが重要です。
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