スケールアップにおける撹拌槽設計:6つのポイント

CAE用語

撹拌槽の設計やスケールアップに関する議論は、化学プロセスや製造プロセスで非常に重要なテーマです。
特に撹拌槽が乱流状態で動作している場合、その設計や動力計算は特定の法則に基づいています。

本記事では、撹拌槽のスケールアップ時に考慮すべき動力計算や設計の基本的な考え方を解説します。

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スケールアップにおける撹拌槽設計のポイント

撹拌槽は乱流条件で設計するのが基本

実機サイズの撹拌槽は、ほとんどの場合、乱流条件で設計されています。
乱流とは、流体が不規則に動く状態で、撹拌槽の効率を最大化するために重要です。

乱流下では、撹拌槽に設置されたバッフルが液体の流れを安定させ、効果的な混合を促進します。このため、設計段階で乱流を前提とした計算が多く用いられます。

乱流条件下では、撹拌翼の動力数(Np:Power number)は一定とみなすことができ、次のような関係が成り立ちます。

$$
N_{p1} = N_{p2}
$$

この関係は、スケールアップの前後で撹拌槽の特性が保持されることを意味します。

動力数(Np)の詳細な説明はこちら

撹拌槽のスケールアップにおける基本方程式

スケールアップでは、スケールアップ前(添え字1)とスケールアップ後(添え字2)の撹拌槽を比較し、必要な動力を計算します。

以下はその基本的な式です。

$$
P_2 = \rho_2 \cdot n_2^3 \cdot d_2^5 \cdot N_{p1}
$$

この式から、スケールアップ後の動力 \( P_2 \)​ を求めるために必要な要素は、流体の密度 \( \rho_2 \) ​、撹拌槽の直径 \( d_2 \) ​、回転数 \( n_2 \) ​、そしてスケールアップ前の動力数 \( N_{p1} \)​ です。

回転数のスケールアップによる決定方法

回転数 \( n_2 \)​ は、体積一定(Pv一定)のスケールアップであれば次の式で計算できます。

$$
n_2 = n_1 \left(\frac{d_2}{d_1}\right)^{-\frac{2}{3}}
$$

この式により、スケールアップ後の撹拌槽の回転数が決まります。

もし体積一定でない場合は、撹拌槽メーカーに相談し、最適な回転数を決定することが推奨されます。

動力数 \( N_{p1} \) の決定方法

次に重要なのが、スケールアップ前の動力数 \( N_{p1} \)​ です。

理想的には、実測データを基に動力数を算出するのが最も正確です。

実際に使用している装置の動力を測定できる場合、そのデータを用いて \( N_{p1} \)​ を計算することを強くお勧めします。
実測データほど信頼できるものはありません。

もし実測データがない場合は、以下のような方法があります。

  • 文献で提唱されている動力数の推算式を使用する
  • 流動解析を行い、トルクから動力および動力数を計算する

推算式を使用する場合の注意点

動力数の推算式を使うことは簡便ですが、適用範囲に注意が必要です。

特に、撹拌槽の設計や撹拌翼の種類によっては、推算式が有効でない場合があります。

推算式は、主に1段の小型翼(パドル翼、タービン翼、プロペラ翼など)で広く適用されますが、多段翼メーカー特有の撹拌翼については、適用可能な推算式がないことも多いです。
そのため、推算式を利用する際は、撹拌槽の形状や寸法が推算式の適用範囲内に入っているかを必ず確認しましょう。

流動解析を使用するメリットとデメリット

流動解析を用いる場合、複雑な形状や特殊な条件下でも正確な動力算出が可能です。
しかし、いくつかのデメリットも存在します。

  • 解析にかかる時間が長い
  • 解析結果が適切な精度であるかを確認する必要がある

一方で、推算式では対応できない複雑な条件にも対応できるため、特に精密な設計が求められる場合には有用です。

まとめ

撹拌槽のスケールアップには多くの要素が絡み合っていますが、基本的な理論を理解していると、より効果的な設計が可能になります。

特に動力数や回転数の計算は、スケールアップの成功に直結するため、慎重に進めることが重要です。

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動力数を算出するための計算ツールはこちらを参照ください。

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