概要
実務では、既設プラントの伝熱計算を行う機会が非常に多いです。
増産時には、既存プラントにどれくらいの余裕があるのかを確認する必要がありますし、トラブル発生時には原因究明のために計算を行います。
良い案件でも悪い案件でも、伝熱計算は避けられません。
伝熱計算の対象は主に熱交換器ですが、撹拌槽の伝熱計算も時々行います。
撹拌槽の伝熱計算は、以前に記事で詳しく解説しました。興味がある方はぜひご覧ください。
本記事では、化学メーカーの設計担当者が実務で伝熱計算を行う際に注意している5つのポイントについて解説します。
伝熱計算のポイント5つ
1. 物性値が正確か
伝熱計算を行う上で、使用する物性値が正確であることが最も重要です。
どれだけ計算式が正確であっても、物性値が間違っていれば計算結果は信頼できません。
特に注意すべき物性は以下の3つです。
- 比熱:物質が吸収する熱量を計算する上で最も重要な物性です。
比熱が分からないと、熱収支の計算自体が成り立ちません。 - 蒸発潜熱:主に気液平衡の計算に用いられます。
蒸発潜熱の値は、物質の沸点や周囲の圧力条件に依存するため、正確な推算が必要です。 - 熱伝導度:熱がどれだけ効率よく物質内を移動するかを示す物性です。
伝熱解析や熱流体計算において必要不可欠な値です。
これらの物性値の推算方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
シミュレーションソフトの利便性と注意点
最近ではシミュレーションソフトにこれらの物性計算式が標準で組み込まれています。
ソフトが自動的に物性を計算してくれるため、非常に便利です。
しかし、ソフト内の計算式や物性値がどのような条件下で適用されているかを把握していないと、誤った結果が出ることもあります。
適切な結果を得るためにも、物性値や計算式を確認してからシミュレーションを行いましょう。
2. 流量・温度データの確認
伝熱計算を正確に行うためには、実機の流量と温度データが欠かせません。
実際のプラントでは、全ての流体に対して流量計や温度計が設置されているわけではなく、必要なデータが不足していることが多いです。
例えば、熱交換器においては、各流体の入口に流量計が1つ、入口または出口に温度計が1つあれば良い方です。
用役側には計器が付いていないことも一般的です。
追加データの取得が必要
既設装置の能力解析を行う場合、特に用役側(例えば冷却水や蒸気)のデータが不足していることが多いです。
このような場合、別途計測を行い、データを取得する必要があります。
特に流量や温度の計測は伝熱能力を正しく評価するために重要です。
3. 運転条件の変動
流量計や温度計のデータをそのまま使用するのは危険です。
なぜなら、そのデータが取得された運転条件が何であったかを正確に把握していないと、誤った結論を導く可能性があるからです。
バッチプラント vs 連続プラント
例えば、バッチプラントでは時間と共に運転条件が変動するため、各時間帯のデータを比較する必要があります。
一方で、連続プラントは一定の条件下で運転されることが多いですが、定修明けの立ち上げ時や、需要の変化に対応するために低負荷運転を行う場合もあります。
最近ではコロナ禍による生産調整も増え、低ロードでの運転が一般化しているため、こうしたデータ取得時の状況を詳細に確認する必要があります。
運転状況を正確に把握するためには、プラント担当者と綿密に連携を取り、データがどのタイミングで取得されたのかを確認しましょう。
4. 汚れやすいプロセスか
汚れ係数は伝熱装置の能力を評価する際に重要な要素です。
熱交換器は流体の温度変化により、溶解度が変化しやすく、その結果として伝熱管に汚れが蓄積することがあります。
これにより伝熱性能が徐々に低下します。
汚れの蓄積と汚れ係数の重要性
伝熱装置は通常、定修後のきれいな状態から徐々に汚れていきます。
定修直前の汚れた状態では、伝熱能力が低下しており、場合によっては運転条件にも影響を与えることがあります。
特に、スチーム加熱を利用したシステムでは、汚れによって総括伝熱係数 \( U \) が低下し、それを補うためにスチームの背圧を上昇させることがよくあります。
そのため、既設装置の伝熱計算を行う際には、データが取得されたタイミングの汚れ係数を考慮する必要があります。
また、定期的に汚れの進行具合をプロットすることで、汚れの蓄積速度を見積もることも有効です。
5. 振動や異音の有無
伝熱計算そのものには直接関係ありませんが、装置の振動や異音は伝熱装置の寿命に影響を与える重要な要素です。
特に、熱交換器におけるチューブの摩耗や減肉は、装置の振動によって引き起こされることが多いです。
これが進行すると、最終的にはチューブに穴が開き、流体漏れが発生するリスクがあります。
振動リスクの評価と対策
伝熱シミュレーションソフトは、振動が発生するかどうかを計算する機能も備えていますが、ソフトが示した振動の可能性が実際に現場で発生するかどうかは別問題です。
そのため、定修時にはチューブの減肉検査や、運転中の振動や異音の確認を行い、リスクを事前に察知することが重要です。
まとめ
本記事では、既設プラントで伝熱計算を行う際に考慮すべき5つのポイントについて解説しました。
- 物性値が正確か
- 流量・温度データの確認
- 運転条件の変動
- 汚れやすいプロセスか
- 振動や異音の有無
これらのポイントを押さえることで、既設プラントでの伝熱計算をより正確かつ効果的に行うことができます。
また、定期的に検討のチェックリストを更新し、より信頼性の高い計算結果を得られるようにすることが重要です。
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