汚れ係数とは:主要流体の参考値も記載

化学工学
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概要

プラントで使用される流体は、通常、純粋な物質ではなく、何らかの混合物で構成されています。
混合物には溶解度の高いものから低いもの、さらには溶けていないスラリー状のものまで様々です。

これらの中でも、特に溶解度が低い物質やスラリー状のものは、プラント内の機器壁面に付着しやすく、トラブルの原因となることがあります。

特に熱交換器は、流体の温度変化によって溶解度が変わりやすく、また伝熱管が細いことから汚れが付着しやすい機器です。

伝熱面に汚れが付着すると、伝熱性能が悪化し、その影響を 汚れ係数(fouling factor)r [m²K/W] で表現します。

汚れ係数と総括伝熱係数の関係

熱交換器の伝熱性能を評価する際には、総括伝熱係数 \( U \) [W/(m²K)] が用いられます。

総括伝熱係数は、以下の式で表されます。

$$
U = \left( \frac{1}{h_o} + r_o + \frac{x_l}{k} + r_i + \frac{1}{h_i} \right)^{-1}
$$

ここで、

  • \( h_o \) :外側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]
  • \( r_o \) :外壁側の汚れ係数 [m²K/W]
  • \( x_l \) :材質厚み [m]
  • \( k \) :伝熱管の熱伝導度 [W/mK]
  • \( r_i \) :内壁側の汚れ係数 [m²K/W]
  • \( h_i \) :内壁側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]

この式において、汚れ係数 \( r_o \) および \( r_i \) が大きくなるほど、総括伝熱係数 \( U \) は小さくなり、伝熱性能が低下します。

つまり、熱交換器の内部や外部に汚れが蓄積すると、熱の伝達効率が悪化し、エネルギー効率の低下や運転コストの増加につながるのです。

総括伝熱係数の詳細な説明はこちら

汚れの発生原因

汚れの発生は主に以下の要因に依存します。

  • 溶解度の低下:流体の温度変化により、一部の溶質が溶解度の低下によって析出し、伝熱面に付着する。
  • スラリーの沈殿:スラリー状の流体に含まれる微粒子が伝熱面に堆積する。
  • 化学反応:伝熱面上で化学反応が起こり、固体物質が生成されることによる。
  • 腐食生成物:流体中の成分が伝熱管を腐食し、腐食生成物が付着する。

これらの要因は、汚れ係数に直接的な影響を与えます。

特に冷却水やプロセス流体など、使用する流体の種類や運転条件によって汚れの程度は大きく変わります。

汚れ係数の参考値

プラントでよく使用される冷却水やガスに関する汚れ係数の参考値は、実験や経験から得られたデータが存在します。

以下の表は、代表的な冷却水およびガスの汚れ係数の参考値を示したものです。

冷却水の汚れ係数

冷却流体汚れ係数 [m2K/W]
(115℃以下)
汚れ係数 [m2K/W]
(115~205℃)
海水0.00010.0002
水道水0.00020.00035
湖水0.00020.00035
河水0.00050.0007
硬水0.00050.0009
蒸留水0.00010.0001
冷水塔0.00020.00035
冷却水の汚れ係数

冷却水として使用される水の中でも、特に河川水や硬水は高い汚れ係数を持ち、伝熱性能が低下しやすいことがわかります。

また、冷却水塔の水も比較的高い汚れ係数を持つため、定期的なメンテナンスが必要です。

ガスの汚れ係数

ガス流体汚れ係数 [m2K/W]
アルコール蒸気0.0002
有機物蒸気0.0002
スチーム0.0001
冷媒蒸気0.00035
空気0.00035
ガスの汚れ係数

ガスは一般的に付着物が少なく、汚れにくいという特徴があります。

特にスチームやアルコール蒸気、有機物蒸気は、非常に低い汚れ係数を示し、伝熱面への汚れの付着はほとんどありません。

しかし、冷媒蒸気や空気のようにやや高い汚れ係数を示すガスもあるため、使用する流体に応じた設計と保守が重要です。

汚れの防止策とメンテナンス

汚れの付着による伝熱性能の低下を防ぐためには、以下の対策が有効です。

  • 定期的な洗浄:汚れが蓄積する前に定期的に伝熱面を清掃することで、伝熱効率の低下を防ぐことができます。
  • 化学薬品の使用:スケールや腐食生成物を防止するために、適切な化学薬品を添加する方法が有効です。
    特に冷却水系では、防錆剤やスケール抑制剤が使用されることが一般的です。
  • 水質管理:冷却水やプロセス流体の水質を定期的にモニタリングし、適切な範囲内に維持することも重要です。
    特に硬度や溶解物質の管理が汚れ防止に大きく貢献します。
  • 設計段階での配慮:熱交換器の設計時に、流体の特性や運転条件を考慮し、適切な材料や構造を選定することで、汚れの発生を抑制できます。

まとめ

熱交換器における汚れ係数は、機器の伝熱性能に大きな影響を与える重要なパラメータです。

流体中の溶解物質やスラリー、化学反応生成物が伝熱面に蓄積することで、汚れ係数が増加し、総括伝熱係数 \( U \) が低下してしまいます。

設計段階で汚れ係数を考慮することはもちろん、運転中の適切なメンテナンスと水質管理によって、汚れの蓄積を防ぎ、熱交換器の効率を維持することが重要です。

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