表面張力は、液体がどれだけ物体の表面を濡らすかを決定する重要な物性です。
化学装置や蒸留塔の設計において、充填物の濡れ面積を正確に計算するために必要不可欠です。
濡れ性能は分離効率に大きく影響を与え、充填物の材質や液体との相性が設計の成否を左右します。
この記事では、表面張力の実測値と推算方法について詳しく解説し、設計者が知っておくべき計算手法を紹介します。
パラコール法や汎用的な計算式による表面張力推算の方法も取り上げ、実測値との比較を行います。
表面張力の実測値
まず、空気中での各物質の表面張力の実測値を以下に示します。
物質 | 温度 [℃] | 表面張力 [dyn/cm] | 物質 | 温度 [℃] | 表面張力 [dyn/cm] |
---|---|---|---|---|---|
アルゴン | -187.16 | 12.84 | 水銀 | 20.0 | 475.0 |
アンモニア | -45.0 | 36.67 | 水素 | -256.0 | 2.41 |
一酸化炭素 | -193.0 | 9.8 | 窒素 | -203.0 | 10.5 |
一酸化窒素 | -156.0 | 23.83 | 二酸化硫黄 | 30.0 | 20.6 |
一酸化二窒素 | 20.0 | 1.75 | 二酸化炭素 | 20.0 | 1.16 |
塩化水素 | -93.0 | 24.7 | ネオン | -248.16 | 5.5 |
塩素 | 20.0 | 18.4 | フッ化水素 | 10.0 | 9.62 |
過酸化水素 | 18.2 | 76.1 | フッ素 | -200.0 | 16.82 |
三酸化硫黄 | 35.3 | 30.3 | ヘリウム | -270.0 | 0.239 |
酸素 | -202.0 | 18.01 | 水 | 25.0 | 71.97 |
四塩化炭素 | 30.0 | 25.7 | ヨウ化水素 | -36.0 | 27.1 |
臭化水素 | -70.0 | 27.65 | ヨウ素 | 125.0 | 36.8 |
臭素 | 20.0 | 41.5 |
水の表面張力が約72 dyn/cmであることは広く知られており、蒸留塔や充填物の設計においても水を基準にすることが一般的です。
表面張力の推算法
パラコール法
表面張力の推算にはパラコール法がよく使用されます。
この方法では、表面張力 \( \sigma \) と液体の密度 \( \rho \)、および温度に基づいて表面張力を算出します。基本式は以下の通りです。
$$
\sigma = \left( [P] \frac{\rho_{L_b}}{M} \right)^4 \left(1 – \frac{T_r}{T_{br}}\right)^4 n
$$
ここで、
- \( \sigma \):表面張力 [dyn/cm]
- \( \rho_{L_b} \):標準沸点における液体密度 [mol/cm³]
- \( [P] \):パラコール定数
- \( T_r \):対臨界温度
- \( T_{br} \):対臨界沸点温度
- \( n \):物質ごとの指数(例:アルコール類は 0.25、炭化水素は 0.29)
パラコール定数は、次の表から各分子成分に基づいて加算されます。
構成要素 | パラコール定数 [P] | 構成要素 | パラコール定数 [P] |
---|---|---|---|
C | 9.0 | ケトン 炭素数 3 | 22.3 |
H | 15.5 | ケトン 炭素数 4 | 20.0 |
CH3- | 55.5 | ケトン 炭素数 5 | 18.5 |
-CH2- | 40.0 | ケトン 炭素数 6 | 17.3 |
CH3-CH(CH3)- | 133.3 | -CHO | 66.0 |
O | 20.0 | N | 17.5 |
エタノールの表面張力の例
エタノールの表面張力を例に挙げると、パラコール定数は次のように計算されます。
$$
[P] = CH_3- + -CH_2- + -OH = 55.5 + 40.0 + 29.8 = 125.3
$$
エタノールの臨界温度と沸点に基づく計算では次のようになります。
$$
T_r = \frac{273.15 + 20}{516.2} \approx 0.568
$$
$$
T_{br} = \frac{273.15 + 78.5}{516.2} \approx 0.681
$$
エタノールの液密度が 0.734 g/cm³、分子量が 46.1 g/mol なので、表面張力は次のように求められます。
$$
\sigma = \left( \frac{125.3 \times 0.734}{46.1} \right)^4 \left( 1 – \frac{0.568}{0.681} \right)^4 \times 0.25 \approx 21.5 \, \text{dyn/cm}
$$
実測値(22.8 dyn/cm)に非常に近い結果が得られます。
シミュレーションソフトによる表面張力の推算
表面張力の推算には、化学工学向けのシミュレーションソフトがよく利用されます。
これらのソフトウェアでは、DIPPR式やその他の経験式が使用されており、物質固有のデータベースを基に計算が行われます。
DIPPR式の一般形は以下の通りです。
$$
\sigma = C_1 (1 – T_r)^{C_2 + C_3 T_r + C_4 T_r^2 + C_5 T_r^3}
$$
- \( C_1 \) ~ \( C_5 \) :物質固有の定数で、ソフトウェア内にデフォルト設定されています
- \( T_r \):対臨界温度
これらのシミュレーションソフトでは、ユーザーが物質の温度や圧力を設定することで、自動的に表面張力を推算します。
これにより、複雑な計算を手動で行う必要がなく、迅速に信頼性の高い推算値を得ることができます。
まとめ
表面張力は、液体の濡れ性や機器の設計において重要な要素です。
蒸留塔や化学プロセス設計において、表面張力を正確に算出することは、装置の効率や性能を最適化するための重要なステップとなります。
パラコール法をはじめとする推算法やシミュレーションソフトによる計算方法を駆使することで、設計者は実測値に近い表面張力を得ることができます。
これにより、設計の信頼性が高まり、装置の性能向上にもつながるでしょう。
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