概要
熱交換器などの機器で交換熱量を求める際に使われる総括伝熱係数(U)について、理論と計算方法を詳しく解説します。
総括伝熱係数は流体の流速や材質に依存し、次の式で表されます。
$$
Q = U \cdot A \cdot \Delta T
$$
ここで、
- \( Q \) :交換熱量 [W]
- \( U \) :総括伝熱係数 [W/(m²K)]
- \( A \) :伝熱面積 [m²]
- \( \Delta T \) :温度差 [K]
この式は、伝熱面を通して熱がどれだけ移動するかを計算する基本式です。
総括伝熱係数は、境膜伝熱係数や材質の熱伝導度など多くの要素で決まります。
総括伝熱係数の計算式
総括伝熱係数は、以下のような伝熱プロセスを組み合わせた式で求められます。
$$
U = \left( \frac{1}{h_o} + r_o + \frac{x_l}{k} + r_i + \frac{1}{h_i} \right)^{-1}
$$
ここで、
- \( h_o \) :外側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]
- \( r_o \) :外壁側の汚れ係数 [m²K/W]
- \( x_l \) :材質の厚み [m]
- \( k \) :伝熱管の熱伝導度 [W/mK]
- \( r_i \) :内壁側の汚れ係数 [m²K/W]
- \( h_i \) :内側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]
この式は、外側の流体から内側の流体へ熱が移動する際の各プロセスを考慮したものです。
各要素は、それぞれの区間での熱の伝わり方に基づいています。
総括伝熱係数の導出
高温流体から汚れ層表面への伝熱
まず、高温流体から汚れ層表面への伝熱を考えます。
この場合、対流伝熱のニュートンの冷却法則に基づいて、以下の式で表されます。
$$
dQ = h_o \cdot \pi \cdot D_o \cdot dx \cdot \left(T_h – t_{wo}\right)
$$
ここで、
- \( dQ \) :微小区間の交換熱量 [W]
- \( h_o \) :外側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]
- \( D_o \) :伝熱管外径 [m]
- \( T_h \) :高温流体のバルク温度 [K]
- \( t_{wo} \) :伝熱管外表面の汚れ表面温度 [K]
汚れ層での伝熱
次に、伝熱管外表面の汚れ層における伝熱を考えます。
汚れ層は、汚れ係数を使って次のように表されます。
$$
dQ = \frac{1}{r_o} \cdot \pi \cdot D_o \cdot dx \cdot (t_{wo} – t_1)
$$
ここで、
- \( r_o \) :外壁側の汚れ係数 [m²K/W]
- \( t_1 \) :伝熱管の外表面温度 [K]
汚れ層の厚みは非常に薄いので、汚れ層の径は伝熱管外径 \( D_o \) とみなしています。
伝熱管内での伝熱
伝熱管内部は、伝導伝熱のフーリエの法則に従い、次のように表されます。
$$
dQ = \frac{k}{x_l} \cdot \pi \cdot D_m \cdot dx \cdot (t_1 – t_2)
$$
ここで、
- \( k \) :伝熱管の熱伝導度 [W/mK]
- \( x_l \) :伝熱管厚み [m]
- \( D_m \) :伝熱管平均径 [m]
平均径 \( D_m \) は以下の式で求められます。
$$
D_m = \frac{D_o – D_i}{\ln(D_o/D_i)}
$$
汚れ層での伝熱(内側)
次に、伝熱管内表面の汚れ層を考えます。これは外側と同様に考えられ、以下の式で表されます。
$$
dQ = \frac{1}{r_i} \cdot \pi \cdot D_i \cdot dx \cdot (t_2 – t_{wi})
$$
ここで、
- \( r_i \) :内壁側の汚れ係数 [m²K/W]
- \( D_i \) :伝熱管内径 [m]
- \( t_{wi} \) :伝熱管内表面の汚れ表面温度 [K]
汚れ層の厚みは非常に薄いので、汚れ層の径は伝熱管内径 \( D_i \) とみなしています。
内側の流体への伝熱
最後に、伝熱管内表面から低温流体への伝熱を考えます。
$$
dQ = h_i \cdot \pi \cdot D_i \cdot dx \cdot (t_{wi} – T_c)
$$
ここで、
- \( h_i \) :内側の境膜伝熱係数 [W/(m²K)]
- \( T_c \) :低温流体のバルク温度 [K]
総括伝熱係数の式整理
これらの各区間での伝熱量は定常状態では一定ですので、温度差を使った各伝熱量の式を変形し、それぞれの式を加算します。
最終的に次のような総括伝熱係数 \( Uo \) を得られます。
$$
U_o = \left( \frac{1}{h_o} + r_o + \frac{x_l}{k} \cdot \frac{D_o}{D_m} + r_i \cdot \frac{D_o}{D_i} + \frac{1}{h_i} \cdot \frac{D_o}{D_i} \right)^{-1}
$$
この式を元に、総括伝熱係数 \( Uo \) を求め、伝熱面積や温度差と組み合わせて、実際の熱交換量 \( Q \) を計算することができます。
内径基準の総括伝熱係数 \( U_i \) も、以下の式のように置くことで同様に整理ができます。
$$
dA_i = \pi \cdot D_i \cdot dx
$$
伝熱管の厚みが薄く外径と内径がほぼ同じ厚みとみなせる場合は \( D_o = D_i = D_m \) として式を簡略化することがあります。
$$
U = \left( \frac{1}{h_o} + r_o + \frac{x_l}{k} + r_i + \frac{1}{h_i} \right)^{-1}
$$
総括伝熱係数の参考値
実際の設計では、経験的に求められた流体ごとの総括伝熱係数の参考値が知られています。
以下は代表的な流体の組み合わせにおける参考値です。
高温流体 | 低温流体 | 総括伝熱係数U [W/(m²K)] |
---|---|---|
水 | 水 | 1400~2900 |
有機物質(粘度0.5cp以下) | 水 | 400~900 |
気体 | 水 | 10~300 |
水蒸気 | 水 | 1150~4050 |
有機物質(粘度1.0cp以上) | 水 | 30~450 |
これらの参考値を基に、自身で計算した結果を確認し、妥当性を確認することができます。
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まとめ
総括伝熱係数は、熱交換器やその他の伝熱機器の設計において重要な役割を果たす指標です。
流体の境膜伝熱係数や汚れ係数、材質の熱伝導度など、さまざまな要素が影響を与えます。
一方で実測するのが難しいため相関式を使用して算出することが多いです。
総括伝熱係数の計算方法を正しく理解し、設計や検討に役立てましょう。
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